五百話 ようやくの水着回! その30
いくらなんでも、心臓が止まっているは言いすぎである。
「あ! 良かった、ちゃんと生きてるっ。おにーちゃんの心臓、動いてる!」
背中に耳を当てて、俺の心音を確認していた梓がそう報告すると……メアリーさんはよろめいた。
「可愛くない……本当に、面白くない! ワタシがエロすぎてショック死していれば、まだ救いようがあったものをっ」
何がどう救われるのか教えてほしい。
発言の意味がよく分からなかった。
まぁ、とにかくショックを受けているように見えたので、フォローしておこうかな。このままだとちょっとめんどくさそうだし。
「えっと……メアリーさんはたぶんだけど、恐らく、きっと――魅力的だと思うから、落ちこまないでいいと思う」
「心にもないことを言わないでくれるかい?」
「……ごめん」
「ふぁっく」
苦虫を噛み潰したように表情を歪めるメアリーさん。
それから、ふてくされたように砂浜にゴロンと寝転がった。
「あー、つまんない……いや、分かってはいたよ? コウタロウは貧乳好きの変態だって知ってはいた。でも、男性って結局は大きければなんでもいいんだろう? だったら、貧乳好きはシホを安心させるための演技である可能性もあったわけだ。だって、大きいおっぱいが嫌いな男性はいない」
そう断言されても困る。
実際、俺がそうでもないのだから。
「結局は噛ませ犬か……くそー。面白くないっ。童貞らしく挙動不審になれ! ワタシの自尊心を満たせっ! リョウマみたいに鼻の下を伸ばしてくれたら、すぐさまシホからコウタロウを寝取るのに!」
「……え!? ね、寝取るってあれよね? ……そう、どろぼうねこちゃん! そんなのダメよ、絶対に!」
メアリーさんの発言を聞いて、しほが慌てたように俺の前に出てきた。両手を広げて、メアリーさんが見えないように俺の視界を塞いでいる。
「幸太郎くん、見ちゃだめっ。メアリーさんは危ないわ」
「シホ……警戒してくれてありがとう。でもダメだ、ワタシ程度だとコウタロウは何も思わないらしいからね。安心してくれ、万が一にも彼はワタシを好きにならない。なぜなら、シホが調教したせいでコウタロウが貧乳好きになっているからだ!」
「えー!?」
「いやいや、調教はちょっと違うような……!」
困ったなぁ。
メアリーさん、しほに悪い言葉を教えるおはやめてほしい。
寝取るとか、調教とか、そういう言葉はもうちょっと大人になってからでいいと思うのに。
でも、まぁ……否定はできないか。
たしかに俺は、しほの影響で胸が大きくてもそこまで心が動かないようになっているのだから。
「んー、二人とも何を勘違いしてるの? おにーちゃんは、霜月さん……じゃなかった。おねーちゃんの影響でひんにゅー好きになったわけじゃないよ? 梓の影響に決まってるよ???」
そして、二人目の挑戦者が俺の前に飛び出してくる。
小柄な少女の名前は、中山梓である。
俺の義妹が、兄をドキドキさせることに自信満々である。
「おにーちゃんはシスコンだから、ひんにゅー好きになったに決まってるじゃん!」
何を根拠にそれを断言できるのか。
スク水姿で、この場の誰よりも色気という観点では薄い少女は、しかしそれでもなお前向きである。
でもなぁ……申し訳ないけど、梓にドキドキすることはめったにない。
あるいは、メアリーさんよりも可能性が低いのに、誰よりも彼女は勝利を疑っていなかった――
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