四百九十九話 ようやくの水着回! その29

「Gカップで骨抜きにできない男なんていないに決まってるだろう?」


 メアリーさんは豪語する。

 臨戦態勢を整えているかのように指をポキポキと鳴らしながら、俺に蠱惑的な笑みを向けていた。


「コウタロウ、今だけは素直になるんだ……キミだって、本能的には大きい方が好きなはずなんだよ。だって、男性とはそういう生き物だからね。これは感情的な話ではなく、生物的な論理なんだよ。人間だって動物さ。繁殖が本能に刻まれている限り、ワタシのようなムチムチな肉体に魅力を感じるに決まっている」


 諭すように。

 教師が生徒に授業をするかのように。

 あるいは、洗脳するみたいに……メアリーさんは、俺に語りかけていた。


「審判は梓がやるねっ。おにーちゃんがドキドキしてるか、ちゃんと聞いておくからっ」


 いつの間にか背後には梓が回り込んでいて、俺の背中にピタリと耳を当てていた。心音を聞いているのだろうけど……それにしても、今日の梓はテンションが高いなぁ。


 普段より子供っぽい気がする。でもまぁ、楽しそうなのでいいことなのかな。


「だから、この勝負はそもそも勝負にならない。なぜなら――Gカップのワタシが勝つに決まっているからね!!」


 はたしてそれはどうだろうか?

 色々と語っているところ悪いけど、俺はメアリーさんの言葉に凄く懐疑的である。

 それっぽいことを言っているようで、論理も破綻してると思う。生物的にメアリーさんが勝つに決まってるって……そんなの人それぞれじゃないのかなぁ。


 人間って、多様性を武器にして進化していったわけで。

 みんながみんな、メアリーさんみたいな体形を好きだった場合、偏りが生じるわけだから多様性が損なわれて――と、まぁとにかく好みなんて一人一人違う方が当たり前だと思う。


 だから、彼女の言葉に惑わされることはなかったけれど。


「そ、そうなんだ……! お、男の子って、やっぱり大きい方がいいんだ……」


 俺よりもしほの方が動揺していた。

 素直な子だから、メアリーさんの言葉をすっかり信じてしまったらしい。


 とても不安そうな様子だ。

 いやいや、そんなことないよ――と言うのは簡単だけど、こういうのは言葉だけというよりも、結果が伴っていた方が信用できるかな。


 と、いうことで……とりあえず、メアリーさんの誘惑にドキドキしなければいいだけの話である。

 しほにそれを見てもらえれば、彼女の抱いている不安もすぐに取り除けるだろう。


「にひひっ。準備は整ったようだね……じゃあ、ドキドキさせてあげようかな。くらえ――ラッキースケベ!」


 そう言って、メアリーさんはいきなり俺の方に向かってころんだ。

 いや、ころんだというか倒れ込んできた。


 どうしよう、よけたい。

 でも、背中には耳を付けている梓がいるので、動けない。


 だから、仕方なく受け止めたら……わざとらしく、メアリーさんが体を押し付けてきた。


「さぁ、これでどうだい? ムチムチでプニプニで最高の肉体だろう? エッチな漫画や薄い本で大活躍すること間違いなしの巨乳JKとラッキースケベ……これでドキドキしない童貞なんていない!」


 下品だなぁ。

 梓としほの前で、そういう品のないセリフは言わないでほしい。


「はぁ」


 思わずため息が零れた。

 もちろん、感情なんて微動だにしていない……ドキドキするには、心の温度があまりにも低すぎる。


「アズサ! さぁ、結果を言ってごらん……ワタシの勝利を、宣言してくれ!」


 それなのにどうしてメアリーさんは自信満々なのか。

 ニヤニヤと笑って梓の言葉を待っていた。


 もちろん、結果は――


「え……おにーちゃんの心臓、止まってる!? 全然動いてないよっ!!」


 ――いや、止まってはないよ?

 とにかくまぁ、そういうことである。


「そんなバカな!」


 メアリーさんは驚いている。

 そしてびっくりしているのは、彼女だけではなく。


「えー!」


 しほもまた、信じられないと言わんばかりに……だけどちょっとだけ嬉しそうに、声を上げていた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る