四百九十五話 ようやくの水着回! その25
そんなこんなで、今日に限ってしほは梓の『おねーちゃん』となった。
「ねぇねぇ、あずにゃん?」
「なに……お、おねーちゃん」
「うふふ♪ 呼んでみただけ~」
「めんどくさっ!」
「めんどくさくてもいいわ。だっておねーちゃんだもの」
「おねーちゃんだからってめんどくさいのはダメじゃないの?」
「ダメじゃないでーす。だっておねーちゃんだもの」
「霜月さんにとっての『おねーちゃん』ってどうなってるわけっ」
現在、梓は俺が持ってきた浮気に掴んでぷかぷか浮かんでいる。
先程よりもちょっと沖の方に出てきたので、身長の低い彼女には深い場所なのだ。俺にとってもギリギリというか、胸の少し上に海面がある状態なので、これ以上は奥に進めないだろう。
そろそろ戻った方がいいかな?
まぁ、二人もこれ以上奥に進む気はなさそうなので、大丈夫だろう。
「ふぅ~。やっぱり、梓は泳ぐのきらーい。別に苦手じゃないけど、こうやってのんびりしてる方が好きかな~」
そう言いながら、梓は浮き輪にぐてーっともたれかかる。
……やっぱり、梓には浮き輪が似合うなぁ。
以前と比べたら体も心も成長している。とはいえ、小学校中学年から高学年……いや、ちょっと下駄をはかせてせいぜい中学生になった程度の変化なので、まだまだ幼く見えるのは変わりない。
しかも着用しているスク水は、中学校で利用していたものなので……まぁ、うん。残念ながらまだまだ高校生には見えなかった。
「あずにゃんにはやっぱり浮き輪が似合うわね。子供っぽくて愛らしいもの……さすが私の妹ね」
「妹じゃないから! ってか、霜月さんだって浮き輪につかまってるんだから、梓と似たようなものだよねっ?」
「違うわ。だっておねーちゃんだもの」
「『おねーちゃん』はそんなに万能な言葉じゃないよ!?」
うん、そうだよ。
おねーちゃんだからって身長はごまかせない……たしかに梓よりしほの方が数センチだけ大きいかもしれないけど、ほとんど身長は同じくらいである。
だから、今いる場所がしほにとっても深いのは当然で、彼女も浮き輪にしがみついているのだ。
それなのに、しほはちょっと強がっているようで。
「べ、別に浮き輪なんて必要ないけれど? だって私はおねーちゃんだもの」
「……じゃあ、浮き輪を離して? ほら、おねーちゃんだから大丈夫なんでしょっ」
「あ、ちょっと、やめ――」
しほが大丈夫と言うものだから、梓が彼女の手を浮き輪から引き剥がそうとする。
でも、しほはそれに抵抗して浮き輪にしがみつこうとするものだから……バランスが、崩れた。
「「あっ!?」」
丸いドーナツ状の浮き輪が、二人の手からぽーんと離れる。
その瞬間、二人は沈みかけたけれど……近くにいた俺を見つけるや否やな、即座に飛びついてきた。
「おっと」
手を伸ばす二人を視認して、すぐに手を伸ばす。
「おにーちゃん!」
「幸太郎くんっ!」
「はいはい、大丈夫だから落ち着いて」
そして、二人の体をしっかりと掴んで、水中に沈まないように引き寄せた。
一瞬、本気で焦ったのだろう……二人の表情に焦りが浮かんでいた。
でも、俺は不思議と冷静だった。
緊急事態でも慌てずに行動できるのは、俺のいいところなのかもしれない。
最善の対応を取れた自分が、なんだか誇らしい。
とはいえ、反省点もある。やっぱり深い場所に来たのは間違いだったと思っていたら……そういえば、二人に密着されていることを思い出した。
「び、びっくりしたぁ……おにーちゃんがいて良かったっ。ありがと、おにーちゃん。あと、ごめんね霜月さん?」
「さ、さすがにふざけすぎちゃったかしら……ごめんね、あずにゃん? ありがとね、幸太郎くんっ」
しほと梓は意識してないのだろう。
謝罪と感謝を口にしているのはいいことだと思う。
でも……二人とくっついているこの状況は、なんだか恥ずかしかった――
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