四百八十七話 ようやくの水着回! その17

 霜月しほを色でたとえると、多く人間が『白』と答えるだろう。

 髪も、肌も、それから性格も――彼女は純白なのだから。


 それでは、あいつはどうだろうか。

 つい最近まで、自分のことをモブと思い込んでいたあいつは――中山幸太郎は、どんな色なんだろう?


 ふと気になって、自分で考えてみる。

 だけどなかなか答えが出なくて、ついつい胡桃沢さんに聞いてしまった。


 すると彼女は、俺を見定めるようにジッと見つめて思案するように顎に手をあてた。


「……あんたの色は、見えない」


 少しの無言のあと、胡桃沢さんはそう呟く。


「胡桃沢さんでも、俺の色は分からないんだ……」


 まだ自我が薄いのだろうか?

 もっと自分をさらけだして、ちゃんとした『色』が見えるようになりたいなぁ……と考えていたけれど、胡桃沢さんは首を横に振って俺の勘違いを指摘した。


「分からないわけじゃないわよ。文字通り、見えないのよ」


「……見えない?」


 色が、判別できないわけじゃない。

 見えない色だと、彼女は言っている。


 つまりそれは、


「――透明なのよ。白であり、黒であり、青であり、赤であり……あらゆる色が混じっているように見えるし、そうじゃないようにも見える。ガラス? 水晶? 宝石? うーん、たとえが難しいけど……とにかくあんたは『透明』という色を持っている」


 透明。

 その言葉を耳にして、ふと思い出したのはしほの発言だった。


『幸太郎くんの音は、すごく透明な感じがする』


 いつだっただろうか?

 出会ってからまだ数ヵ月も経っていない頃……彼女は俺の音を聞いて、よくそう話していた。

 胡桃沢さんの『目』とはまた、ちょっと違うニュアンスだと思うけど……辿り着く表現が一緒なのは、単なる偶然じゃないような気がする。


「何色にも染まる『白』とは違って、あんたの色は何色にも『なれる』。竜崎龍馬のような黒でも、あたしのようなピンクでも、クソメイドのような邪悪な色にだって……ね」


 否定はできない。

 たしかに俺は、自分とは違う存在……かつては『キャラクター』と呼んでいた別者になることができた。モブキャラに始まり、噛ませ犬キャラ、悪役キャラ、主人公キャラなどなど――あらゆる色に自らを染めていたのだ。


「前は、自我が透明なくらいに薄いだけだと思っていた。でも、最近のあんたを見ていると……違う。ちゃんと透明なまま、相手の色を拒まずに受け入れられている。影響されることもなく、あんたはちゃんと『中山』として存在している」


 透明であることは、悪い意味合いではなかったようだ。

 むしろ、胡桃沢さんの様子を見てみると、良い意味合いにすら感じるくらいに。


「さっきだって、欲望に支配されることなく理性を保てていたし……すごいじゃない。霜月の水着、すごかったでしょ? 興奮させれば男性らしい色を見せると思ったら――真っ赤になって照れるなんて、初々しいにもほどがあるでしょ。バカみたい……人間として透き通りすぎて、ちょっと引く」


「ひ、引くって……そんなこと言わないでくれよ」


 自分でも分かってるんだから。

 もうちょっと、男らしく堂々とありたかったけれど、まぁ俺という人間性にそういうのは似合わないか。


「悪いことではないわよ。むしろ、あんたがそうやって透明であれるからこそ、純白の霜月とうまくやれてるんだから……でも、一つ不思議なのは――どうしてあんたたち、付き合ってないの?」


 そして彼女は、不意に話の切り口を変えた。

 さっきまで穏やかだったのに……いきなり、胡桃沢さんの目つきが鋭くなっていた。


「誰が悪いの? 中山だと思ってたけど……霜月の水着を見て照れるほど大好きなんだったら、有り得ない。だから――あんたたちの関係を穢しているのは、霜月か」


 ようやく、答えが分かった……そう言わんばかりに――。




『お知らせ』

霜月さんはモブが好き、ついにコミカライズがスタートしました!

本日、6月30日よりコミックライドにて連載開始となっております。

詳しくは八神鏡のTwitterにありますので、ぜひぜひよろしくお願いしますm(__)m

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