四百八十二話 ようやくの水着回! その12
別にかっこつけてるわけじゃない。
でも、俺は普通の高校生より『性欲』が希薄だと思っている。
これは普通のことじゃない。むしろ異常なことであって……男子高校生であれば、彼女ができたら下心を抱く方が自然だと思う。
しかし俺にはそれがなかった。
それなのにどうして、しほを好きになれたのか……下心がないのに、今まで人を好きになんてなったことがない中山幸太郎が、霜月しほにだけはなぜ特別な感情を抱いたのか。
その理由は、純粋に彼女の人間性に惹かれたからだった。
断言できる。たとえ、しほが今より可愛くなくても……綺麗じゃなくても、きっとしほが『しほ』である限り、俺は彼女を愛していた。
可愛いから、綺麗だから、好きになったわけじゃない。
たまたま好きになった人が、可愛くて綺麗だっただけである。
だから……悪い言い方をすると、今まではしほの容姿に関して重視したことがなかったのかもしれない。どんなスタイルだろうと、顔立ちだろうと、好きだと断言できるから。
とはいえ、である。
それがもしかしたら、しほはちょっとだけ不満だったのかもしれない。
「私は『あずにゃん』じゃないもん。妹みたいに可愛がられるのは嬉しいけれど……もっと見てほしいなぁ――って、思ってたから」
ビーチチェアに座って涼む俺の隣で、しほも同じように座りながらそう語る。
さっきはふらふらしていたけれど、座って水を飲んだら少しは気分が楽になってきた。
しほも、今は上着を着てくれているので、刺激は薄い。
それでも、まだ先程のビキニ姿が脳裏に焼き付いていて、直視ではできずにいる。
「でも、そっか。幸太郎くんって、私に対して何も思わないわけじゃなくて……分かってないだけだったのね? いや、分かってないんじゃなくて……免疫がないことを隠していたのかしら?」
隠していた、わけじゃない。
でも、そう言い切る前に……もしかしたら『そうかもしれない』と考える自分もいて、妙に納得してしまった。
「俺も、無意識にかっこつけてたりしたのかなぁ」
だって、女性の体に……いや、初めて異性として意識している相手の体に対して、過剰なまでに耐性がないなんて、やっぱり恥ずかしい。
自覚はない。でも、しほには悪いところを見せたくなくて、無意識に隠していたのだろうか。
「幸太郎くんって、他の女性の水着を見ても何も思わないのでしょう?」
「うん。そうだ……と、思ってた」
「でも、私は違うの?」
「全然違ってびっくりした」
こういうたとえが適切なのかは分からない
でも、なんとなく……初めてグラビア雑誌を見た気持ち、と言えるような気がした。
慣れていないせいで、まともに見れない。
水着屋さんではまだ大丈夫だったのになぁ……あまりにも似合いすぎるというか、煽情的というか、蠱惑的というか……とにかく、魅力が増していてなんだかおかしくなりそうだった。
「良かった。ちゃんと、女性として意識してくれてて……安心した。幸太郎くんって、時折私の『親』みたいな顔をしてるもんっ。保護者じゃなくて、大好きな人なんだから、ちゃんと私のことを見てほしいわ」
見ているつもりではある。
でも、その目線は彼女の言う通り、保護者としての視線だったように思えてきた。
もっと、同じ目線で……恋人みたいな距離感で、彼女を見るべきだった。
夏休みになって『宿題したら?』『だらだらしたらダメだよ』とか、そういうお母さんみたいなことばかり言って、それに彼女が不満そうだったのは、二人とも視点が少しずれていたからかもしれない。
そこを素直に、反省した――
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