四百八十話 ようやくの水着回! その10

「わー! し、しししし……霜月さん!?」


 しほのビキニ姿を目の当たりにして、驚いたのは俺だけじゃなかったようだ。

 梓も俺みたいに……いや、俺以上にびっくりしたらしく、動揺した様子である。


「ん? なーに、あずにゃん?」


 一方、しほは俺がほめたからなのか、とても表情が緩い。

 ふにゃふにゃと体を揺らしながら、見ただけで気の抜けるような笑みを浮かべている。


 梓とは対称的な表情だった。


「あ、スク水だったのね? すごく似合ってる! かわいい!! まるで小学生みたいで素敵ね?」


「小学生じゃないもん! ってか、そそそそれはダメだよ……おにーちゃん、見ちゃダメ! これはまだ早いと梓は思いますっ!!」


 そう言って、今度は梓が俺の目を隠してくる。

 背中から飛びつくように目を塞いできたので、彼女が転ばないように手を後ろに回して支えると……おんぶをしているような状態になってしまった。


 あー、また真っ暗だ。

 とはいえ、しほのビキニ姿が脳裏に焼き付いて消えない……暗闇でも、まだ体が熱いままである。


 その体温を、梓は感じ取っているらしい。


「ほら、おにーちゃん……霜月さんの水着姿が刺激的すぎて熱出てるよ!? このままじゃ倒れちゃうから、これ以上は禁止っ」


「えー? 幸太郎くんったら、私がかわいすぎて倒れちゃいそうなの? うふふ、それ見てみたいかもっ」


 さっきまで弱気だったくせに。

 不安そうな表情を浮かべていたくせに。

 恥ずかしいって、言ってたのに!


 褒められた瞬間に、しほは強気になっていた。


「つんつーん。幸太郎くん、ほらほらみてみて? 胡桃沢さんに選んでもらった水着、すごくかわいいでしょっ?」


 俺をからかうように脇腹をつついてきている。

 梓に目を塞がれているせいで彼女の表情は見えないけど……なんとなく、どんな顔なのかは分かる。


 きっと、小悪魔めいた表情をしているんだろうなぁ――って。


 しほってそういうところがあるのだ。

 調子に乗りやすいというか……安心した相手には結構、イタズラっぽくなる。


 そういうところにドキドキするから、やめてほしい。

 俺は意外と、こうやってからかわれるのが嫌いじゃないのだろう……鼓動が速く、そして大きくなっている感じが自分でも分かった。


 もちろん、俺におんぶされている梓にも、鼓動が届いているようで。


「お、おにーちゃん、落ち着いてっ……! 霜月さん、お願いだからからかわないで!? おにーちゃん、すごく女性の肉体――ってか、霜月さんの肉体に耐性がないから、そういう恰好は良くないよっ」


「え、耐性がないって……かわいくて照れてるだけなのでしょう? だったらいいんじゃないかしら???」


「照れてるどころじゃないよっ。おにーちゃんは――霜月さんがえっちすぎて、気絶しそうになってるんだからね!?」


 い、いやいや!

 さすがにそんなわけない……って言いかけたけれど、ふと自分の状態を探ってみる。


 熱は高い。

 息は荒い。

 鼓動は早い。

 気分は動揺している。

 足取りは覚束ない。

 喉はなぜか異常に乾いている。

 そういえばさっきから、空気が上手く吸えていない気がする。


 あ、これは結構……まずいかも?


 自分で自分の状態がよく分からなかった。

 しかし、梓の言う通り……俺は結構、いけない状態なのかもしれない――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る