3巻カバーイラスト公開記念 しほちゃんはメイドさん

 本編の途中ですが、3巻のカバーイラストを公開したので記念に特別SSを書きます。近況ノートにあります!

 webバージョンではなく、書籍バージョンのしほちゃんです。

 3巻はweb版とは大きく違って、全編書下ろしとなっております。

 詳しくはツイッターに記載しております。ぜひ遊びに来てください!





 歩くたびに、太ももがスースーする。

 丈が短いので意味がないのは分かっている……それでも、スカートの裾を押さえてしまうのを止められなかった。


(うぅ、なんだかすっごく恥ずかしい……!)


 なんやかんやあって、とあるメイドカフェでお手伝いをすることになった霜月しほちゃん、16歳。

 彼女は今、メイド服特有の短い裾に困らされていた。


(メイドさん、見るのは好きよ? でも、やるのはなんか違うと言うか……本当に大丈夫かしら? わたしにメイドさんなんて、似合っているのかしら???)


 不安が頭から離れない。

 初めて着た……というか着せられたメイド服の防御力は、思った以上に低めである。


 まぁ、学校指定の制服のスカート丈もそこまで変わらないのだが、しほは先程からずっと不安を抑えきれていない。


 肌色が多くて恥ずかしい、というわけじゃない。

 いや、それも少しはあるのだが、一番気になっているのは――


(幸太郎くんは、似合っているって言ってくれるかしら?)


 誰よりも、特別に思う少年の感想だけがしほは気になっている。

 他の、どんな人物の感想も彼女は気にしない……ただ、一人だけの認識だけが、しほにとっては大切なのだ。


 幸太郎に嫌われたら、それですべてが終わる。


『似合わない』


 その一言を浴びたら、彼女は立ち直れない自信があった。

 だけど……そもそも、こんな酷いことを言うような人間を、しほが好きになるわけもなく。


(――そんなこと、幸太郎くんが言うはずないわっ)


 信じてる。

 彼の愛を……思いを。

 中山幸太郎という人間なら……しほが大好きになってしまったほどに魅力的な彼であれば。


 しほが傷つくような言葉を、言うわけがない。

 だから着た。本当は、露出するのがあまり苦手じゃない彼女でも……それ以上に、幸太郎に『かわいい』と言ってもらいたくて、勇気を出した。


 着替えが終わって、姿見に映る自分を見て……不安はまだ拭えないが、それでも彼女は顔を上げる。


「――よーしっ」


 先程、渡されたメニュー表を胸に抱える……胸元の布もいつもよりちょっと薄い気がして、思わずギュッと抱きしめる。


 いくら自分で『大丈夫』と言い聞かせても、不安はずっと消えない。

 彼はそんなこと言う人間じゃない……そう分かっていても、心の奥底にいる暗い自分を――過去の冷たい自分を思い出すと、コウタロウがいなくなったあの頃の記憶が蘇ると、不安感が強くなる。


 もう、孤独には戻りたくない。

 でも、かわいいと言われたい。


 その複雑な乙女心に、しほは翻弄されていた……緊張で足が動かなくなりそうで、気もちが沈みかけている自分に気付いて、彼女は無理やり自分に気合を入れる。


(むぅ……んにゃー!)


 心の中で、叫ぶ。

 そして、ヤケクソ気味に化粧室から店内へと飛び込む。


 彼は、カウンター席の方にいた。


「こ……幸太郎くんっ」


 呼びかける。

 その瞬間に、彼女は思わず逃げ出しそうになってしまう。


 顔を見るのが怖かった。

 少しでも、マイナスな感情を向けられたら……そう考えて、なんだか泣きそうになってしまったのだ。


 でも――そんな不安は、一瞬で消えた。


「……っ!?」


 幸太郎が、分かりやすく顔を真っ赤にしたのだ。

 普段は落ち着いていて、あまり顔色を変えない少年だというのに……しほのメイド服姿を見ると、ゆでだこみたいに真っ赤になったのである。


 珍しく、幸太郎が動揺していた。


「え? あ、っ……!」


 何か言おうとしている。

 でも、うまくろれつが回らないみたいで、何も言えていない。


 そんな彼を見て……しほの心が、溶けた。


(――やっぱり、あなたで良かった)


 似合わない、とか。

 そんなことを言われるかもしれない……そう思った自分を、恥じる。


(こんなに、照れてくれるなんて……やっぱり、大好きっ)


 ただ、メイド服を着ただけなのに。

 それだけで、こんなに照れて動揺する少年を、しほは誰よりも愛しく思った。


 もう、不安感はない。

 先ほどまで強張っていた体も、今は弛緩していた。


(でも、どうせだから……かわいいって、言ってもらいたい!)


 見せつけるように、その場で一回転する。

 一周まわって、くるりと振り返って……それから、彼に問いかける。


「ちゃんと……似合ってる?」


「う、うん! もちろん! 似合ってる……かわいい」


 その問いに、顔を真っ赤にした幸太郎は何度も頷いてくれた。

 それを見てしほは笑う。


「えへへ~」


 幸太郎が照れていることと同じように、なんだか彼女まで照れてしまった。


『かわいい』


 その一言がこんなに嬉しい相手は、彼だけである。


(幸太郎くんと、出会えて良かった)


 この瞬間に、しほは強くそう思う。

 幸太郎との出会いを……運命を、人生(ラブコメ)に、心から感謝するのだった――



【終わり】


 と、いうわけで3巻のカバーイラスト公開です!

 書籍版はweb版を上回るように、毎回のように書き直しております。

 本作品のリニューアル、と言っても過言ではありません。

 ぜひぜひよろしくお願いします!!

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