四百七十七話 ようやくの水着回! その7

「おー! メアリーちゃんってなんかすごいね。お城づくりのセンスあるよっ」


「……ん? アズサ、どうしてワタシには『おねーちゃん』をつけてくれないんだい??? なんかキミ、すごくフランクだね」


「え? だって、メアリーちゃんはおねーちゃんじゃないでしょ? 性格もあんまり良くなさそうだし……あと、おにーちゃんが素っ気ない人ってみんな悪い人だから、梓も尊敬しないよ?」


「も、もしかして……ワタシのこと、ちょっと見下してるのかな???」


「え? あー、うーん……人を上か下かで見てる部分は、ちょっと見下すかなぁ」


「ぐぎぎっ。妹キャラにまで舐められるほど落ちぶれるとは……!! くそ、この怒りはお城にぶつけるしかないね!」


「わっ、すごい! メアリーちゃんって中身はあれだけど、手先は器用なんだね!」


 とかなんとか。

 梓がコーラを飲みながら、メアリーさんの作るお城を見て関心している。


 珍しく彼女が他人を見下しているので、ちょっと面白い光景だった。


「よしよし、あともう少しで完成だ……」


「梓も手伝うね?」


「お、おい! 触らないで――」


「あ、間違えてふんじゃった! てへへ~」


「『てへへ~』で済むと思うなよ!? このブラコンがー!!」


 あーあ。砂のお城が、梓の小さな足で崩壊している。

 いい感じに仕上がっていたのに、残念ながらまた一からやり直しだった。


「もう壊さないでくれよ!? ふりじゃないからね? 絶対に、絶対に、絶対にだ!」


「う、うん。分かってるけど……困ったときは梓が助けてあげるから、遠慮なく頼ってね?」


「足手まといにしかならないけどね」


「そんなことないよ~笑」


「そんなことなくないよ!? さっき壊してただろうっ」


 あの様子だと、また梓が壊しそうだなぁ。

 と、二人の様子を眺めていたら……不意に、視界が真っ暗になった。


「だーれだっ」


 優しく、そっと添えられた手の感触は微かに熱くて……その小さな指は、何度も握ったことのあるものなので、間違えようはない。


 加えて、聞いていてとても心地よいその声の持ち主は、絶対に彼女であると断言できた。


「しほだよね?」


「しほじゃないもんっ!」


「いやいや、君は霜月しほちゃんだと思うけど」


「しほじゃなくても、ちゃんと呼んでっ」


 ……ああ、なるほど。

 本名の方ではなく、あだ名を呼んでもらいようで、彼女はまだ手を離してくれなかった。


「しぃちゃん?」


「――正解!」


 やっぱりそうだった。

 愛称を口にすると、彼女は嬉しそうに声を弾ませる。


 顔は見えないけど、しほが笑っているのは容易に想像できた。


「幸太郎くん、たまーに私のこと『しほ』って呼ぶときがあるわ。無意識だろうけど、ちゃんと『しぃちゃん』に慣れてほしいものね……もう『しほ』では物足りないもんっ」


「……そうかな? ごめんね」


 無意識である。

 まぁ、慣れていないのは確かにそうかもしれない……心の中ではまだ『しほ』と呼んでしまっている。彼女の名を口にするとき、やっぱりまず最初に思い浮かぶのは『しほ』で、それから『しぃちゃん』に変換するから、たまに間違えてしまうのだろう。


 無意識に愛称を呼べるようになったら……その時はまた、関係性がもう一歩進展しそうである。


「えっと、それで……いつ水着を見せてくれるの?」


 だーれだ。

 そう言われて、クイズに正解したのに、しかし視界はまだ晴れない。

 しほの手が光を隠したままだった。


「だ、だって……はずかちぃ」


 しほがもじもじと身を揺らしているのが気配で分かる。

 しかし、俺だって見たいから……この状態は、なかなかもどかしかった――。

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