四百七十六話 ようやくの水着回! その6

 今、梓が着用しているのは、紺色のスクール水着だった。

 胸元には『中山梓』と名前も記されている。


 まぁ、最近のスクール水着は昔より露出が多いというわけじゃない。

 袖がないので肩は見えるけど、下はスカートのよう形状になっていて、ふとももまでちゃんと覆われている。


 でも、兄としてはもう少し露出を押さえてほしかった。


「梓、日焼けするぞ?」


「うぇ~。過保護すぎじゃない? おにーちゃんのお洋服とか別に着たくないんだけど」


 そう言いながらも、彼女は手を差し出してくる。

 最近、ちょっと反抗的な言葉も増えてきたけど……素直じゃないだけで、意外と言うことは聞いてくれるんだよなぁ。


「水着はそれでいいのか?」


 上着を渡して、そういえば梓がコーラを探していたことを思い出して、クーラーボックスを空ける。氷が敷き詰められているので、かきわけるように奥の方を探すと、ちゃんとあった。


 それを梓に渡すと、彼女は当然のように受け取りながら俺の質問に答えてくれた。


「うん、別にいいかなーって」


「言ってくれたら、新しい水着くらい買ったのに」


 我が家の家計は俺が管理している。

 普段はお小遣いをあげて、その中から自由に使ってもらっている。でも、水着ならお小遣いとは別に買っても良かったけれど……梓には大してこだわりがないようだった。


「だって、梓に一番似合ってる水着はスク水だもん」


「え」


「……この前、プールの授業中にキラリおねーちゃんがそう言ってた」


「そ、そうなのか?」


「他の水着は、むしろ邪道だって。『ちっちゃいんだからそれを武器にしなさい』って」


「武器になるんだ……」


 たしかに梓は小柄である。

 中学生……いや、小学生と言われてもまぁ、納得できるほどの容姿なのだ。


 だから、スク水も似合ってないわけじゃない。

 でも、うーん……いや、難しく考えるのはやめよう。


 梓がそれでいいのなら、それでいいや。


「おにーちゃんの上着って、そのまま海に入ってもいいの?」


「うん。ラッシュガードっていうらしい」


「へ~……ってか、おにーちゃんって筋肉全然ないね」


「うん。あんまり見せたい体ではないんだよなぁ」


「それでも梓に上着を貸すなんて、ほんとーにシスコンだね~。もう、おにーちゃんはしょうがないな~♪」


 シスコンじゃないよ。

 と、言いたいところだけど、梓の機嫌がとても良さそうだったので何も言わないで置いた。

 彼女は鼻歌を口ずさみながら、椅子に座ってコーラを飲んでいる。


「クソがっ。兄妹で仲良くイチャイチャするなよ……スク水が似合うロリ妹にデレデレしやがって。やっぱりコウタロウってロリコンなんじゃないか??? 主人公がロリコンって有り得ないだろ。どんなクソラブコメなんだよっ」


 その隣では、メアリーさんがいじけたように砂でお城を作っていたけど、何も言わずにスルーしておいた。


「あれ? 梓、しぃちゃんと胡桃沢さんは? 一緒に来てないのか?」


 メアリーさん、梓と会話していたので、そこそこ時間は経過している。

 しかしまだ二人は来ていなかった。


「霜月さんはめんどくさそうだったから置いてきたよ? 胡桃沢さんが連れてくるんじゃない?」


「めんどくさそうだったって……」


「なんか、今更になって恥ずかしがってたから」


 そうなんだ。

 しほ、恥ずかしがってたのか……いったいどんな水着なんだろう?


 まだ見てないので、彼女の水着姿はすごく楽しみだった――

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