四百七十五話 ようやくの水着回! その5
牛柄のビキニを着たメアリーさんが、何やら前かがみになって俺に流し目を向けている。
見る人の好みによったら、それはすごくセクシーな体勢なのかもしれない。
しかし、俺の中にある『好み』の評価項目通りに採点した結果、メアリーさんはストライクゾーンを高く外れているので、眼中になかった。
「ふーん」
「ふーん!? ワタシの体を見て、その一言ですむなんてありえないっ……クソすぎる! クソラブコメだ!!」
「そんなこと言われても、困るなぁ」
「困るなよ! 興奮しろっ。照れろ! 『お、おい……恥ずかしいから、そんなポーズするなよ』って言えよ! 顔を赤くして、視線をそらしながら、だけど見ずにはいられない――みたいな水着回のお約束をやれ!!」
メアリーさんが、珍しく感情的になっている。
前までは冷静で論理的だったのに……最近は取り乱す場面が増えてきた。
能力は高いけど、意外とおっちょこちょいで、調子に乗りやすく、自分に酔っているタイプの人間だからなぁ。
彼女は自分を完璧と思っているようだけれど。
天は二物を与えない。
残念ながら、可愛げのある欠点が、最近になってハッキリと見えるようになってきた。
「コウタロウ! ど、どうかな? 似合ってるだろう? Gカップだぞ??? グレイトでジャイアントでゴッドのGカップだ!!」
別に大して何も思っていないのに。
何か感想を言わないと、メアリーさんは俺にしつこく絡んできそうだ。
だから、仕方なく……どうにかこうにか、俺は彼女の水着姿で良いところを見つけ出して、口に出した。
「えっと、あの、うーん……そうだなぁ。あ~……ん~…………その~、そうだ! 牛柄、いいね。可愛いと思う」
「そこ!? 違うだろ、水着の柄じゃないと思うのだけれどね!? 大きさとか、形とか、スタイルとか、もっとエロくてスケベなところあるだろう!!」
「でも、牛柄はいいと思う」
「『ホルスタインっぽくていいわね』って、あのピンクに悪ノリされただけの水着だよっ。そこも含めて、キミを悩殺できると思ったのに……まさかワタシが返り討ちにあるなんてっ」
……珍しい。
メアリーさんが、涙目である。
よっぽど、自信があったのだろうか……だとしたら、すごく申し訳ない気分になってきた。
「ごめん、俺以外の男性に見せた方がいいと思う。メアリーさんはすごいんじゃないかな? たぶんだけど、綺麗だと思うし……恐らく、魅力的だと思う」
「おいおい、それで慰めてるつもりかな? キミ、全然思ってもないことを言うじゃないか……せめて『たぶん』とか『恐らく』って言わないでくれるかい??? お世辞って分かりやすくて全然気持ちが晴れないからね!」
やっぱりダメか。
上辺だけの言葉で取り繕うことができるほど、メアリーさんはバカじゃない。
俺がまったく興味を持っていないこともバレているようだった。
「おーい、おにーちゃん? ここにコーラってある?」
それから、不意に声をかけられたのでそちらを振り向くと、いつの間にか梓がやって来ていた。
クーラーボックスの前で屈んで、飲み物を探している。
恰好は……スク水だった。
「あ、梓っ。俺の上着、使うか? 露出しすぎだぞ」
義妹の水着姿を見て、少し動揺してしまう。
家族にこういう恰好をされると困る……なんか恥ずかしい。
――と、狼狽える俺を見て、隣のメアリーさんは驚愕していた。
「アズサに動揺して、ワタシには平然とするってやっぱりおかしいと思うんだけどねっ! くそ、意味が分からない……お色気キャラのつもりだったのに、全然セクシーに描写されない!!」
そうやって嘆いているけれど、まぁどうしようもない。
もういいや。とりあえずメアリーさんはスルーして……梓に上着を渡そうかな――
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