四百七十四話 ようやくの水着回! その4

「まぁ……せっかく海が近くにあるわけだし、どうせなら泳いでおいた方がいいわね」


 結局、胡桃沢さんの一言で海に行くことが決定した。


「うぅ、幸太郎くんに捨てられたら人生終わりだわ……っ!」


「おにーちゃんはそんな人間じゃないよ。もう、めんどくさいなぁ……ほら、水着に着替えよ?」


 メアリーさんのせいで泣きべそをかくしほの手を、梓がめんどくさそうに引っ張っている。

 そのまま二人は、奥の部屋へと消えていった。


 別荘にはいくつか部屋が用意されている。

 部屋数の関係で基本的には二人で一部屋なのだが、男性の俺だけは一部屋用意されていた。


「中山。さっさと着替えて海に行っといて」


「え? 一緒に行けばいいんじゃない?」


「そうしたら霜月の水着をここで見ることになるじゃない……どうせなら海で見なさい? すごく可愛いの選んであげたから」


「……なるほど、そういうことか」


 いったいどんな水着を選んだのか、俺はまだ見ていない。

 たしかに、別荘で見るよりも海で見た方が雰囲気も合ってよいだろう。


「パラソルとか、クーラーボックスとか、クソメイドに用意させてるから……いくつか持って行っておいて」


「わかった。すぐに準備するよ」


 頷くと、胡桃沢さんも自分の部屋に戻っていった。

 あれ? そういえば、メアリーさんもいつの間にかいなくなっている。相変わらず神出鬼没な人だなぁ……まぁいいや。


 とりあえず俺も割り当てられた部屋で水着に着替えて、外へ出た。

 俺の水着は、大して特徴もない普通な形状である。海に濡れてもいいように、あとは日焼けしないように、長袖のラッシュガードも着ているので、裸というかスポーツウェアを着ているような気分だった。


 玄関の脇にはパラソルやクーラーボックスなどの荷物が置かれていたので、それを担いで道に出た。

ここを少し進むと、もうビーチがある……当然だけど、眼前には海が広がっていて、少しだけ足が止まった。


 この時期なのに、人がほとんどいない。

 とはいえ、まったくいないというわけじゃなく……遠くの方に、ちらほらと数人見かけた。

 プライベートビーチではあるけれど、複数人で共有して管理しているようだ。先程、駐車場で見かけた人たちは、恐らく胡桃沢さんたちと同じプライベートビーチの所有者なのだろう。


 まぁ、お互いに干渉は望んでいないようで……ちゃんと距離をとっている。だからたぶん、あの人たちとかかわることはなさそうだ。


「……まぁ、このあたりでいいか」


 ビーチの後方には木が生い茂っている。

 ちょうどいい木陰にパラソルを置いた。幸い、ビーチはさほど大きくないので、海ともそんなに離れていない……熱中症対策のためにも、ここでいいだろう。


 ひとまず、重いクーラーボックスも置いて、もう一度別荘に戻る。

 折り畳みの椅子とか、日焼け止めなどの入ったカバンを担いで、もう一度ビーチに向かう。


 これで準備完了かな……と一息ついた、その瞬間だった。


「――うふんっ♪」


 パラソルの下で、金髪の女性がセクシーなポーズを決めていた。

 もちろん彼女は、メアリーさんである。


「さて、お色気要員の本領発揮だ! シホよりも先にコウタロウをメロメロにしてやろうと思って、急いで着替えたんだ……どうだい? エロいだろう?」


 そう言って、胸元を強調するように屈むメアリーさん。

 それを一瞬だけ見て、それからすぐに視線を外した。


「別に?」


 興味がなかった。

 それよりも、パラソルの位置の方が気になって仕方ない。

 なので、メアリーさんの横を素通りしてパラソルに向かったけれど……メアリーさんが、俺の足首をガッと掴んだ。


「て、適当に流さないでくれるかな? おいおい、ジョークだろう……さ、さすがに自信がなくなっちゃうよ? もうちょっと照れてくれないかな???」


 そんなこと言われてもなぁ……困る。

 俺はしほの影響で、メアリーさんみたいなスタイルのいい人を見ても、何とも思わくなっているのだから――

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