四百七十三話 ようやくの水着回! その3
お昼ご飯を食べ終えて一息つく。
別荘には大きなリビングがあって、人が五人いても快適だ。
しほも梓も、それから胡桃沢さんもソファに座ってぼんやりしている。
食後ということで気分がまったりしているのだろう。しほにいたっては、目が半開きになっていた……もう少しで昼寝しそうである。
まぁ、この小旅行は二泊三日あるわけで。
今日、必ずしも何かをやる必要はないか。
みんな、移動で疲れているのだろう……そのままここで時間を過ごすのも悪くない、という空気が流れていたそんな時だった。
「――海に行こうか!」
メアリーさんが空気をぶち壊した。
くつろぐ三人を無視して、浮気を掲げながら声を張り上げている。
「せっかく遠出したんだから、少しは活動的になったらどうだい? シホ、食べてすぐ寝たら太るよ? コウタロウに嫌われたらどうするのかな?」
「ふみゅ……幸太郎くんは、私を嫌いになったりしないわよ?」
寝ぼけ眼でも、流石にメアリーさんの言葉が聞き捨てならなかったのだろう。
へにょへにょした声でも、一応反論をしていた。
しかし、メアリーさんは退かない。
「キミみたいなワガママで人見知りでポンコツな女の子を受け入れてくれる人間なんてなかなかいないよ? ただかわいいだけで許されるのは子供の頃だけだ。大人になったら中身だって重視されるんだからね。中身のない人間には、相応の人間しか寄ってこない。つまり今後の人生置いて、コウタロウ以上のの人間と出会えるなんて思わない方がいいよ」
「……うぐっ」
しほは痛いところを突かれた、と言わんばかりに喉を詰まらせている。
メアリーさん、口喧嘩強いからなぁ……しかも彼女には容赦がない。
「その点、コウタロウは大人になればなるほど魅力が増していくだろうね。彼ほど優しくて懐の大きい人間はなかなかいない……シホ、君には本当にもったいない男だ。ネトレるのなら、ワタシがネトリたいくらいの好青年を蔑ろにするなんて……贅沢だねぇ」
「いやいや、俺はそんな人間じゃないと思うけど」
俺の評価が高すぎて怖い。
別に、謙遜とか卑屈になっているわけじゃない。
単純に、客観的に見て俺は本当に普通だと思うけど……メアリーさんは前々から俺を持ち上げ来るから、怖いのだ。
「キミならまぁ、そう言うだろうね。驕るということを知らない稀な人間だ……故に、シホはコウタロウという人間に見合う努力が必要だと言わざるを得ないね。ともあれ、キミが唯一持っている容姿の綺麗さを維持する努力は欠かさない方がいい。お昼寝はいけないことだねぇ」
「……うぅ、幸太郎くん! やっぱりメアリーさんってすっごく意地悪だわっ」
「うん。彼女は性格が悪いよ?」
そんなこと前々から知っている。
だから、話なんて適当に聞き流した方がいいと思うけど……しほは真に受けちゃっているようだ。
「き、きき嫌いになったりしないでね? 私、これからの人生において幸太郎くん以上に好きになれる人なんていないと思う……というか、幸太郎くんより私を好きになってくれる人なんていないもの! だから、その、がんばるから――ね? 太らないし、ちゃんと可愛いままでいられる努力もするから、私を捨てないでぇ」
ソファから立ち上がって、ふらふらと歩みみょり、洋服の裾をギュッと握りしめる。
まるで、母親に怒られた後の女児みたいに、泣きべそをかきながら……それでも、嫌いにならないでとすすがりつくように、そばにいた。
そんな彼女を見て、梓が一言。
「お、重いっ……!」
意外とドライな梓は、ちょっと引いているけれど。
俺は別に普通だと思うので、大丈夫だよと言ってしほをなだめてあげるのだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます