四百七十二話 ようやくの水着回! その2

 やきそばが美味しい。


「にひひっ。ワタシはなんでもできるんだよ? ポンコツメイド属性さえ付与されてなければ、プロ級の料理を披露することだって造作もないことさ」


 ……一応、俺も毎日料理をしているけれど。

 メアリーさんの手料理は比べ物にならないくらい美味しかった。


「仕事はできるのよ。仕事は、ね……」


「ワタシにはできない人の気持ちが分からないよ。料理なんて味の足し算だろう? 小学生だってできる簡単な計算作業だ」


「はぁ……人格だけが、欠点なのよね」


 胡桃沢さんが呆れたようにため息をつきながら、焼きそばを食べている。

 その隣では、しほと梓も食べていた。


「美味しい! 霜月さん、これすっごく美味しいよっ」


「……そう? ママと同じくらいってところかしら」


「え? リアクション薄いなぁ……霜月さん、美味しいごはんばっかり食べてるから舌が肥えてるんじゃない? 梓はいっつも、おにーちゃんの薄口料理を食べてるから、すっごく美味しいって思う」


「幸太郎くんの料理は愛情という調味料を入れてるから、私は好きよ?」


 とかなんとか。

 二人で会話しながら、食事を続けていた。


 そんなこんなで、焼きそばを食べ終えて……時刻は、14時をちょっと過ぎたくらいである。


「夜ご飯は、バーベキューにしましょうか」


「バーベキュー! ……良い響きだなぁ。うへへ、胡桃沢さんありがとう! 梓、すっごく嬉しい!!」


「喜んでくれているなら、何よりよ。うん……中山の妹ってやっぱり可愛いわね」


「ええ! あずにゃんは世界で一番可愛い私の妹なの!」


「梓は霜月さんの妹じゃないけどね? こんなわがままな人がおねーちゃんなんて絶対にイヤ……どうせなら、胡桃沢さんみたいな人がおねーちゃんがいいなー♪」


「あー! こ、こここれがネトリってやつかしら……うぅ、妹がNTRれたー!」


「え、えっと? 落ち着いて……霜月、大丈夫だから。あたしは別に、寝取ってないからっ」


 ……珍しい。

 普段の胡桃沢さんは、落ち着いていて冷静なんだけど……梓としほのせいで狼狽えていた。

 もちろん、悪い意味の動揺じゃないことは見ていて分かる。


 仲良くしてくれたことを喜んでいると同時に、遠慮の気持ちもあるのか、それが動揺という形になっているように感じた。


 まぁ、それは時間が経てば解決する問題かな?

 胡桃沢さんも、二人には徐々に慣れてくるだろうし……そうなったら、もっと仲良くなるだろう。

 友達が増えるのは、とても良いことである。


「いつもは自分にべったりだった女の子が、別の誰かに夢中か……それって寂しくないかい?」


 そして、彼女はいつも悪い言葉を囁くから、本当に厄介だった。

 しほたちを、ちょっと離れた場所から見守っていたら……後片付けを終えたメアリーさんが、耳元でそんな言葉を囁いてきたのである。


「彼女たちが自分だけに依存してくれていた方が、幸太郎の自尊心も満たされていただろう?」


「……そんなことないよ」


 苦笑しながら、ニヤニヤするメアリーさんに笑いかける。

 もう、そういう言葉に惑わされるほど、未成熟な『キャラクター』じゃないよ。

 俺はもう、ちゃんとした人格のある『中山幸太郎』だから。


「しほの交友関係が広がることは、良いことだよ……俺しか知らない方が、むしろ危険だ。ほら、たまにメアリーさんみたいな悪い人がいるんだから、そういう人も存在することを知るのは悪いことじゃない」


「ちっ。流石だねぇ……『自分だけで満たされたほしい』なんていう男性のくだらないわがままを持っていないとは、やっぱりキミは面白い性格だよ。相手のことをしっかり思いやれる人間だ……反吐が出そうなくらいに、善人だね」


「そんな俺だから、しほが好きになってくれたんだよ」


 この『中山幸太郎』を、俺は好きだ。

 だって、こんな人間だから、しほが興味を持ってくれたのだから――。

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