四百七十一話 ようやくの水着回! その1

 目的の場所に到着する。車で五時間……都会から離れた自然豊かな場所だ。

 前方には海。後方には、少し離れているけど山があって、緑が広がっていた。


 都会とは違って喧騒がないので、いつもより涼しい気がする。

 人もほとんどいない。ちらほらと、胡桃沢さんみたいな裕福そうな方を見かけるくらいだ。そういう人たちも避暑を目的に来ているのだろう……こちらに興味を示しておらず、干渉されることもなさそうだった。


「HAHAHA! キミたち、遅くないかい? ワタシなんて30分前には到着していたんだよ? やる気というものはないのかな?」


 胡桃沢さんの予想通り、メアリーさんはすでに到着していた。

 その傍らには大型のバイクがある。……メイド服でバイクか。なかなか、ギャップがあって面白いかもしれない。


「なんでいるの?」


「キミの思い出を穢すためだよ、ご主人様」


「素敵な理由ね。ほら、いるんだったら荷物を運びなさい……霜月と梓はか弱い女の子なんだから、重たい物を持たせないで」


「ワタシもか弱い女の子だけどね?」


「ゴリラみたな身体能力を持ってるくせに、よく言うわ」


 と、二人はいつものやり取りを交わしながら、別荘に荷物を運んでいた。

 俺も持てる分の荷物を抱えて、二人についていく。建物は一見すると、普通の家……こういうのをコテージというんだっけ? そういう造りになっていた。


『使用人はあのクソメイドしかいない。ごちゃごちゃしてたら霜月が嫌がるでしょ? のんびりしましょうか』


 と、いうことで人数も最低限に絞ったようだ。

 車を運転していた方は、別の建物で待機するらしい……胡桃沢さんって、一体幾つの別荘を所有してるんだろう? お金持ちすぎて想像が難しかった。


「ねぇねぇ、幸太郎くんっ。セミがうるさいわ……ミンミンしてる!」


「うわぁ、セミふんじゃった!? ……って、落ち葉か。うぅ、虫がいっぱいいるぅ……おにーちゃん、なんとかして。虫をこの世から消せる?」


「それは難しいなぁ」


 しほと梓は俺の後ろで周囲を観察している。

 さっきまではしゃいでいたのに……始めてきた場所で緊張しているのか、ちょっと大人しかった。


 二人ともインドア派なので、外はあまり得意じゃないのだろう。

 まぁ、俺もアウトドアに慣れているわけではない。食事とか洗濯とかはどうするんだろう? そのあたりは、胡桃沢さんとメアリーさんに色々と聞きながら、やるべきことをしっかりやっていこうかな。


 それから、車と別荘を三往復くらいして、荷物を運ぶ。

 胡桃沢さんに誘われる前は、日帰りで海水浴を計画していたけど……なんやかんやあって、結局泊まることになっていた。二泊三日の、ちょっとした旅行である。なので、荷物も多かったけど無事に運び終わった。


「さて、今は……13時ね。おなか空いたし、クソメイドに何か作ってもらいましょうか」


「やだ」


「じゃあ、ボーナスを出すから頑張りなさい」


「――最初からそう言ってくれればいいものを、やれやれ……プロ級の腕前を振るってあげよう! 海といえばやきそばだね、ちょっと待っててくれ!」


 そう言って、メアリーさんは別荘に備え付けてあるキッチンに向かっていった。

 胡桃沢さんは、さすがメアリーさんの主人である。扱い方が完璧だった――。

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