四百七十話 夏休み最後のイベント
――八月中旬。
あと二週間ほどで夏休みも終わりになる。
最後の週は、恐らく宿題をやっていないしほと梓につきっきりになるだろうから……出かけるのはこれで最後になるだろう。
「お、おおおおにーちゃん……この車、揺れてないよ!? ソファはふかふかだし、冷蔵庫もテレビもついてるし、テーブルもある! お部屋が動いてるみたいっ」
「……あずにゃんったら、興奮しすぎよ。これはリムジンっていうすごい車なの。アニメで見たことあるわ。別に大したことないわよ?」
「はぁ? 冷静ぶってないで素直になったら? 興奮して当たり前だよっ。だって梓たちは庶民だよ? リムジンなんてびっくりするに決まってるじゃんっ」
「むむ……それもそうね! す、すすすすごいわこれ、本当に車!? ここで暮らせるかもっ」
「梓のお布団より高級! 寝心地も座り心地も最高だよっ!」
なんでしほは強がってたんだろう?
さっきまでおすまし顔で「別に何も思っていませんけど?」みたいな顔をしていたのに、今は梓と一緒にソファにゴロンと寝転がっていた。
そんな二人を、この車の所有者である胡桃沢さんが微笑ましそうに見ている。
「良いリアクションね。こういう時にようやく、資産家の親を持ったことに感謝できる……普段はめんどくさいけど」
梓としほと違って、優雅にコーヒーを飲む彼女はとても大人びていた。
「中山も素直になれば? ああやってはしゃいでくれた方が、かわいげがあっていいと思う」
「……俺は初めてじゃないんだよ。メアリーさんのリムジンに乗ったことがあって」
俺も、最初に乗った時はすごく驚いた。
だけど、何度目かの乗車なので少し慣れてしまっていたのである。
「あのクソメイド、本当に邪魔くさいわね……アメリカで拾わなければよかった」
「まぁまぁ」
ちなみに、メアリーさんは車内にいない。
胡桃沢さんが『あんたは走ってきなさい』と言って、彼女の家に取り残したのだ。
「メアリーさん、連れてこなくて良かったの?」
「……どうせ来るわよ。たぶん、バイクを飛ばしてあたしたちより先に到着してるわ」
「そういえば、免許を持ってるんだっけ?」
この前、クラス対抗のスポーツ大会もバイクで来ていたことを思い出す。
校則は大丈夫だろうか……って、いや。メアリーさんは学校を辞めているので、関係ないか。
「今から向かう場所、近くにお店がない場所だから……何か必要なものがあれば、あの子に買い物にいってもらいましょうか」
それで、わざわざバイクで向かわせたのか。
「ねぇ、連れて行くのは本当にあんたの義妹だけで良かったわけ? 遠慮しなくても良かったのに」
……結局、今回の遠征は梓しか同伴していない。
胡桃沢さんの想定としては、他にも誰か来ると思っていたようだ。
「浅倉とか、北条とか……まぁ、竜崎がいるのはちょっと抵抗があるけど、あんたが連れて行きたいなら別に良かったけど」
「いやいや……竜崎を連れて行きたいとは思ってないけど」
あいつはともかく、キラリと結月には一応声をかけては見た。
しかし、二人には断られたのである。
「ちょうど、竜崎達も遊びに行くらしくて……あっちは山でキャンプするみたいよ」
まさか、時期がピッタリと重なるなんて思わなかった。
日程がズレていれば、結月とキラリもい来たそうにしていたけど……まぁ、こればっかりは仕方ないだろう。
「そう? じゃあ、このメンバーで楽しみましょうか」
と、いうことで……しほ、胡桃沢さん、梓、俺、あとはメアリーさんの五人が遠征に向かっているメンバーである。
夏休み、最後の思い出として楽しいものになればいいけど――
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