四百六十五話 予定の絵図
メイド服の金髪美女が、不敵な笑みを浮かべて俺を見つめている。
サファイア色の瞳に見つめられると、まるですべてが見透かされているような気さえしてくるから不思議だった。
「うーん、いいね。こういう絵図を描きたかったなぁ……元モブキャラの成り上がり。誰からも選ばれなかった幸太郎が、ハーレム主人公として選ぶ立場になるラブコメ――そういう物語が見たかったけれど、現状が残念だよ」
ため息交じりに肩をすくめるメアリーさん。
今の彼女は、ちょっと雰囲気が出ていて昔のような不気味さを宿している。
「むぅ」
しほも何か言いたいようだけど、メアリーさんに気後れしているのか無言だ。
俺も、しっかりと言い返したいところだけど……何を言っても論破されるような気がして、少し発言にためらってしまっている。
だけど、彼女は場の雰囲気に流されない。
「また妄想の話? 物語とか、ラブコメとか、そういう単語は聞き飽きたわ。現実にそんなものあるわけないじゃない。バカじゃないの?」
メアリーさんの色に染まろうとした空気が、彼女のうんざりしたような発言によって一気に霧散した。
「はたしてそれはどうかな? やれやれ、キミは自分が物語のキャラクターであることすら自覚のない、哀れな負けヒロインなんだなぁ」
「あんたと言い争いをするつもりはないけれど……まぁ、これだけは言わせて。物語が現実じゃなくて、あんたは現実を物語に重ねているだけよ。バカバカしい」
「にひひっ。じゃあ、お言葉だけど――」
と、メアリーさんお得意の舌戦が繰り広げられようとした、その瞬間だった。
「うるさいわね。クビにしていいの? あんた、あたしをただのお人よしだと思ってないでしょうね……今はあんたが有用だからそばにおいてるのよ。もし、そうやって本格的にあたしの機嫌を損なう真似をするのなら、分かっているでしょうね?」
ピシャリと、胡桃沢さんがメアリーさんを阻む。
その一言で、かつてクリエイターを自称していたチートキャラは、たちまちに顔色を変えた。
「――あ、これはマジのやつ」
「……メアリーさん?」
「こ、コウタロウ……お、おおお落ち着くように言ってくれないかな? 『冗談ですやん』って!」
「なんで関西弁……」
色々と事情はあるようだけど。
メアリーさんの立場って、俺が思っているより弱いのかもしれない。
尋常じゃない狼狽えように、なんだか笑ってしまった。
「シホからも言ってやってくれ! さ、さっきからかったことは謝るから……ごめんね? クルリにクビにされたらまずいんだ。ワタシ、生まれも育ちもお嬢様で、貧乏な暮らしなんてしなことないから、彼女という財布がなくなったら非情に困るっ」
財布扱いしているから、ああやって怒られると思うんだけど。
とはいえ……俺としほのせいでメアリーさんが路頭に迷うのは、ちょっと気持ちが良くない。
ここは仕方ないけれど、協力してあげようかな。
「……め、メアリーさんって、意外とポンコツ?」
しほも、今の彼女にはちょっと同情しているみたいだ。
彼女のことはあまり良い記憶がないはずだけど……かつてと今では、印象がだいぶ変わっていることだろう。
「ポンコツじゃないさ。ただ、失礼系ドジっ子メイドになっちゃってるんだよ」
「ふーん……私は好きよ? ドジっ子、かわいいもの」
「じゃあワタシもかわいがってくれよっ。ほら、クルリが本気でクビを考えている……前は1時間くらい正座して説教を聞いてあげてやっと機嫌が直った。その時と同じ目なんだよっ」
「そうなの? じゃあ、えっと……胡桃沢さん? メアリーさん、可哀想だから少し手加減してあげてくれる?」
「……霜月がかばう価値なんてそこの牛にはないわよ」
「じゃ、じゃあコウタロウ! 次はキミの番だっ」
「あー……胡桃沢さん、給料無しくらいでいいんじゃないかな。彼女の首輪を外すと、それはそれで厄介だと思う」
とりあえず、妥協案を提示してみる。
そうすると、胡桃沢さんは小さく頷いてくれた。
「分かった。そうする」
「……よし、いいぞコウタロウ! やっぱりこの負けヒロイン、普段はツンツンしているけれどコウタロウにだけ甘いっ」
そういうことばっかり言ってると、また怒られると思うけどなぁ。
やれやれ……メアリーさんは、相変わらずだった――
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