四百六十話 子供デザイン

 俺もしほもファッションの知識がほとんど皆無。

 なので、しほはこう決めたようだ。


「とりあえず、気になった水着は全部試着すればいいんじゃない? それで、幸太郎くんが一番照れたものを買うわ」


 ……あれ? 水着って試着できたかな?

 気になったので、近くを通りかかって店員さんに聞いてみた。


「ご試着ですか? 下着の上からであればご自由にどうぞ。彼女さんの水着選びでしょうか?」


 うーん……厳密にいえばまだ付き合ってないけど、実質付き合っているようなものなので、そこは否定せずに頷いておいた。


「はい。でも、何を買えばいいのか分からなくて……何かオススメとかありますか?」


「そうですね……それでは、悩むことをおススメします。流行よりも、お二人が相談して、納得したものが一番の水着になると思いますから」


 なんだこの人は。

 すごく素敵なことを言って、押しつけがましいビジネストークもなく、サッと離れていった。


 しほも人見知りして黙り込んでいたので、その様子も察してくれたのかもしれない。


「……うきわも買おうかな」


 なんか、お金を払いたくなるような接客だった。せっかくだし、浮き輪とかも後で買って売り上げに貢献しよう。


「うきわ? あはは、幸太郎くんったら泳げないのねっ。お姉さんが泳ぎを教えてあげましょうか?」


 出た。しほのマウント癖が発動している……いや、泳げないわけじゃないんだけど。


「しぃちゃんが泳げないだろうから、買っておいてもいいと思って」


「なんで!? 泳げるもん!!」


「本当かな~?」


「ち、ちっちゃい頃はよく家族で海に行ってたもの! その時に泳げるようなったんだからねっ」


 なるほど。泳げないなら、それはそれで面白かったけど、海に行くのだから泳げた方がいいか。


「まぁ、梓が泳げないからなぁ……あの子にプレゼントしようかな」


「え、あずにゃんも一緒に行けるの!? やった、一緒にスイカ割りとかしたいっ」


「まだ誘ってないけど、どうかな……梓もインドア派だからなぁ」


 はたして義妹は一緒に遊んでくれるのだろうか。

 それはまた後で聞いてみるとして、とりあえずしほの水着選びに戻ろうか。


「じゃあ、私が選んだ水着から試着してみるわね」


 そう言って、しほは布の面積が小さい水着を手に取った。

 いやいや、ちょっと待って。


「それは下着の上から試着できないと思う……」


「……た、たしかにっ」


 高校生が着用したらダメな気がした。

 あと、しほは……良く言うとスレンダー、悪く言うと子供体形なので絶対に似合わない気がした。


「だったら、とりあえず幸太郎くんが選んだ水着を着てみるわね」


 水玉模様がかわいいワンピースタイプの水着。

 フリルもついていて、小学生くらいの女子が着たらよく似合いそうな子供用デザイン。


「……さ、さすがに、サイズが小さい気がするけれど」


 と、言いながらもしほは試着室で水着を着用してくれた。


『シャー』


 と、カーテンが開く音が響いて、そして現れたのは……ブスっとした表情のしほちゃん。

 そろそろ17歳になるというのに、子供用サイズがピッタリだったことが不満だったのか、すごく不機嫌だった。


「なんで着れちゃうの?」


「スタイルがいいんだろうね」


「子供スタイルに合わないスタイルが良かった」


「文句ばっかり言ったらダメだよ。似合ってるよ?」


「なんで似合うの? 子供用なのに!」


「不思議だね。子供用なのに」


「私は大人のレディーなのにっ」


「……はたしてそれはどうだろう?」


 焦って大人になる必要もないと思うけど。

 そうやって、背伸びしているところも子供っぽい……中身が成長してないから、子供デザインが似合うのかもしれなかった――。

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