四百五十九話 目にして初めての水着回

 一応、しほの付き添いのためだけに買い物にきたわけじゃない。

 俺も学校指定の水着しか持っていないので、買わなければいけないのだ。


 とはいえ……男性用の水着って、形状がほとんど同じなので選ぶのに大して時間がかからなかった。


「俺はこれでいいや」


 ハーフパンツ――って表現でいいのかな? ファッションには色々と名前があってよく分からないけど、まぁそんな形状の水着を購入。ついでに、日焼け対策としてラッシュガード……へー、水泳用の上着ってそういう名前があるのか。それも買っておいた。


「幸太郎くんは筋肉ムキムキしないの?」


 俺と一緒に男性用のコーナーを歩いていたしほが、壁に貼られているポスターを眺めながらそう呟く。ポスターに映っていたのは筋骨隆々のモデルさんで、すごく露出も多かった。


 こういうかっこいい肉体なら、もしかしたら俺も上着は買わなかったかもしれないなぁ。


「俺はムキムキじゃないから、ちょっと恥ずかしいかも」


 そう呟くと、しほはニヤリと笑って俺のお腹をつついてきた。


「どれどれ? ふむふむ、意外とプニプニ……してないわ。むぅ、もうちょっとぽっちゃりしててもいいのに。抱き心地が悪くなったらダメよ? 抱き枕としての質が落ちちゃうわ」


「しぃちゃん、筋肉は好きじゃないの?」


「……ちょ、ちょっとだけ怖いから、幸太郎くんには筋トレ禁止令を出すわ。ほら、私のパパがぽっちゃりさんでしょう? そのせいで、シルエットは丸い方が落ち着くの」


 確かに、しほの父親――いつきさんはぽっちゃりされている方である。

 とはいっても、太っているというか……あれは骨太なだけじゃないかな? 柔道も強いみたいで、彼女の家にはたくさんのトロフィーが飾られている。シルエットは丸いけど、男性としての強さを持っていて、すごく憧れるような人でもあった。


「じゃあ、俺はもうちょっと太った方がいい?」


「んー? でも、今の幸太郎くんも大好きだから、そのままでもいいわ」


「そう? だったら、この体形を維持するよ」


 と、そんな雑談を交わしながら、今度は女性用の水着コーナーへと足を進める。

 ……正直、男性の俺にはちょっとだけ抵抗のある場所でもあった。


 できれば、早めに選んでほしいけれど。


「ねぇねぇ、幸太郎くんはどんなのが好き? 私、こういう時はいつもママに選んでもらっているから、選び方が全然分からないわ……」


 しほはファッション……というか、常識に結構疎い。

 まぁ、母親のさつきさんが過保護で、よく甘やかしているところを見かけるので、いつもは全部やってもらっているのだろう。


 だからなのか、選ぶという行動に慣れていないようで。


「あ、これとかいいんじゃないかしら? セクシー!」


 指を差したのは、布の面積が小さいタイプのビキニ。

 雑誌とかで出てくる、ギャルっぽい女性が着用しているイメージがあるやつである。


「こ、これをしぃちゃんが……?」


 しほが着用しているところを想像してみる。

 しかし、モザイクがかかってうまく脳みそが機能していなかった。


 やっぱりちょっと早い気がする。


「うーん、そうだなぁ……あ、こういうワンピースタイプの水着とか似合うんじゃないかな?」


 別の水着に意識を切り替えてほしくて、たまたま目に入ったかわいらしいタイプの水着を指さした。


「これ? なんだか子供っぽくないかしら……って、子供用じゃない!! 幸太郎くん、私を何歳だと思っているの? そろそろ17歳になる大人のレディーなのだから、もっとセクシーなのがいいっ」


 ただ、当たり前だけど俺も水着を選ぶことには慣れていない。

 だから、決定するのには時間がかかりそうだった――

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