四百五十一話 ナマイキなのに打たれ弱いツンよわ梓ちゃん
「変態? 変態……変態!!」
義理の妹に『変態』を連呼される。
それがものすごく辛いことなのだと、初めて知った。
「へ、変態じゃないっ。梓、俺の言い分も聞いてくれ!」
「信じられない……梓のおにーちゃんが変態だったなんてっ。いつ? どこで間違えたの? あんなにお部屋の中を漁ってもエッチな本が見つからないくらいに、健全だったおにーちゃんはどこに行ったの!?」
「……ん? ちょっと待ってくれ。俺の部屋を勝手に漁ったのか? それは流石に良くないぞ」
「変態のくせにお説教しないで!!」
「うぐっ」
変態。その一言は、兄の権威を引き剥がす。
変態なのに道理を説いたところで、説得力がまるでないのだ。
「梓はね、無防備な女の子を襲うようなおにーちゃんに育てた覚えはありませんっ!」
「俺は育てられていたのか……」
梓はどうやら『おにーちゃん』を育成していたらしい。
いつも面倒を見ていたつもりだったけれど……実は、面倒を『見られてくれていた』ということだろうか。立派なおにーちゃんを育てるために、梓はあえて世話のかかる妹を演じていたのかもしれない。
……まぁ、そんなわけないけれど。
ただ単にナマケモノな梓が適当な言い訳をしてサボっているだけである。意外と適当なので、梓の発言を真に受けてはいけない。
「梓、落ち着いてくれ……こうなった経緯をちゃんと説明するから」
とりあえず、なぜか犬歯を剥き出しにして威嚇する梓をなだめるように声をかける。
ひとまず状況の説明から入ろうかと思ったのだが。
「やだ、幸太郎くん……だめだよぉ。んにゃぁ」
絶妙なタイミングがしほが甘い声を発した。
もちろん寝言である。どんな夢を見ているんだろうか……更に俺を強く抱きしめていた。
しほの柔らかい感触に、たまらず頬が緩む。
そのせいでデレデレしていて、それが梓の疑念を深くしているようだ。
「う、うわぁ……ど、どんなことしたの? 霜月さんに何をしたの? え、エッチな夢を見るくらいのことをしちゃったの!?!?!?!?」
「いやいや! そんなわけないから!」
なんでそうなるんだっ。
「俺はしほに何もしてない。朝起きたら、いつの間にか彼女が布団に潜り込んでいたんだよ……梓が考えるようなことなんて何もないんだ……だから変態じゃない。というか、梓の方が変態じゃないか? 自分がそういうことばっかり考えているから、そういうことを疑うんだと思う」
「ち……違うもん! 梓は変態じゃないんだからね!!」
「本当か? 俺の部屋のエロ本を漁ろうとしたんだろ……もしかして、興味津々だから盗み見しようとしたんじゃないか?」
「ちがーう! 違う違う違う違う……違うもん、ばかー!!」
俺も動揺しているのだろう。
いつもなら、梓の発言に対して穏やかに接することができるのに……今日はちょっとだけ攻撃的になってしまった。
そのせいで、打たれ弱い梓はちょっと涙目になっている。
俺に対しては凄くナマイキなのに、反撃されるとすぐに泣きべそをかくんだよなぁ……そういうわけで、いつもなら梓に気持ち良く攻撃してもらえるよう受身を取っていたのに、今日はダメだった。
兄としてそれは反省である。
ここ以上言いすぎると、梓が本格的に泣いてしまう……そうなる前に事態を処理したいのに。
「むにゃむにゃ……うへへ~」
当の本人が気持ちよさそうに眠っているせいで収拾がつかなかった。
こんなに大きな声で言い争っているのに、眠り続けるなんて……しほの神経は、意外と図太いのかもしれない――
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