四百五十話 ぷにぷにほっぺともぐもぐゆびと変態おにーちゃん

 朝起きたら、大好きな人が俺のシャツを着て、ベッドでぐっすり眠っている。

 俺を抱き枕のように抱き着いて……いや、しがみついて眠るその姿を見ていると、胸が温かくなる――を通り越して、熱くなった。


 普段から、スキンシップが少ないとは思わない。

 でも、こんなにくっつくことはめったにないので、ドキドキする。


 夏。部屋は冷房が効いているとはいえ、彼女がくっついているせいで若干暑い。

 それはしほも同じようで、透けるほどに白い肌は少しだけ汗ばんでいた。


 できれば離れてあげたい。

 いや、しほも暑いなら離れてもいいのに……全然、動かない。


 気付けば、この態勢のままもう二時間が経過しようとしていた。

 せっかく、七時に早起きしたのに、もう九時だ。


 まぁ……どうせ梓も起きてこないし、朝ごはんは作らなくてもいいので、やらないといけないことはない。このまま午前中いっぱい、時間を潰したところで大して問題はないだろう。


 とはいえ、俺の理性が耐えられるかどうかは、別問題なのだけれど。


「すぅ……すぅ……」


 気持ちよさそうに寝息を立ててしほは寝ている。

 無防備な彼女に、思わず触れたくなってしまった。


(ちょ、ちょっとくらいなら、いいよな……?)


 ダメだ。もう、我慢ができない。

 なんだかんだ俺も男子なのだろう。欲望がないわけじゃないのだ……好きな女の子を前にして、何もしないでいられるほど、人間として完成していない。


 だから、俺は彼女に触れた。

 その部位は――ほっぺたである。


(す、すごいプニプニだ……!)


 前々から、柔らかそうだなとは思っていた。

 いつか触ってみたいと思っていたので、なんだかすごく満たされた気分になってしまう。


「ふぅ……」


 よし、もういいや。

 俺にしてはすごく大胆なことをしてしまった……こんなところ、誰かに見られたら困る。すぐに指を引っ込めて、何事もなかったようにしほが起きるのを待とう――と、思ったのに。


「んみゅぅ……あむっ」


 ほっぺたがつつかれて、くすぐったかったのだろうか。

 少しだけ身を揺らした彼女は……何を思ったのか、そのまま俺の指を口にくわえたのである。


 俺の人差し指が――しほの唇に埋まっていた。


「…………え?」


 いや、ちょっと待って。

 しぃちゃん、なんでもかんでも口に入れたらダメって、お母さんに教わらなかったのかな?


 俺の指は食べ物じゃないよ!?


(ど、どどどどうしようっ。こんなところ、梓に見られたら大変なことになる……!)


 慌てて引き抜こうと体を起こす。


『ガチャッ』


 ちょうど、その最悪のタイミングで――扉が開いた。


「おにーちゃん、ごめん……霜月さんがいなくなったんだけど、ここに来て――って、あ」


 義妹はミタ。

 義兄が、女の子の口に指を入れているところを。


 それを見て、梓は顔面を蒼白にする。


「お、おにーちゃんが……おにーちゃんがっ!!」


「梓、落ち着け! 違う、俺は何もしてなくて……いや、ちょっとだけ何かはしたけれど、ここまではしてなくてっ!」


 慌てて止めようとしても、既に遅かった。

 梓は俺をこう認識してしまったようである。


「おにーちゃんが――変態になっちゃった!?」


 義妹の『変態』と言う言葉が、心に突き刺さる。

 へ、変態じゃないよ……信じてくれ――!

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