四百四十八話 朝ちゅん

 しほとのお泊り会にやや緊張気味だったけれど……残念ながら、今日の彼女は結月の方に興味津々らしい。


「北条さん、ラーメンが食べたくなってきちゃった」


「え? し、深夜ですよ??? 太りますよ……!」


「この時間に食べるって霜月さんの胃袋はどうなってんの? もしかして宇宙?」


「だ、だってお腹空いちゃって……もちろん、普段はこの時間帯に食べたりしないわ。けど、今日はママがいないから、こういうこともできるかなって」


「な、なるほど! 霜月さん、たまには天才だっ」


「私はいつも天才なのだけれど?」


「……それでは、インスタントラーメンでも作りましょうか」


 現在、深夜12時。

 しかし、リビングには女子が三人集まってお喋りを続けている。


 ついさっきまでは俺も混じっていたけれど……もう限界に近付きつつあった。


「幸太郎さん、キッチンをお借りしますね?」


「…………」


「幸太郎さん?」


「え? あ、うん。どうぞ……冷蔵庫にある食材も自由に使っていいから」


 眠い。

 普段はもう布団に入っている時間なので、睡魔に襲われていた。

 しほが泊まるからもうちょっと一緒にいたかったけど……もう無理かも。


「ん~? 幸太郎くん、眠いの?」


 俺の様子をしほも察したらしい。

 とことこと歩みよってきて、ジッと見つめてきた。


「こんな時間帯に眠たくなるなんて、子供みたいね」


「……そんなに早くないと思う」


 しほも梓も夜型なんだよなぁ。

 梓に至っては夏休みということもあって昼夜逆転している。そのせいか、むしろ今の方が元気に見えた。


「ごめん、もう眠るよ。しぃちゃんたちもほどほどにして、早めに寝るんだぞ?」


「はーい。しっかり夜更かしして眠るわ……おやすみ、幸太郎くん」


「おやすみ、しぃちゃん」


 そう言ってから、俺は部屋へと戻る。


「北条さん、私は塩ラーメンがいい!」


「梓は味噌ラーメンがいいなぁ。結月おねーちゃんは胸が大きいからとんこつラーメンね」


「む、胸の大きさは関係ないと思いますっ」


 三人の雑談はまだまだ終わりそうにない。

 楽しそうな会話は聞いているだけで胸が温かくなる。


 男一人だから、意外と寂しいのかな……とか。

 疎外感を覚えるかと思っていたけれど、別にそんなことはなさそうだ。


 自分で言うのもなんだけど、中山幸太郎はしほの幸せを一番に考えられる人間である。

 だから、俺よりもまずしほが楽しいと思っていることの方が、大切なのだろう。


 そういう人間で良かった。

 だからこそ、しほともうまくやれていると思うから。


 と、いうわけで……今日はお泊り会というよりは『女子会』になりそうだった。

 本当は、この時間帯の夜食や夜更かしは良くないと思う。でも、こういう時くらいはいいだろうと思って、目をつぶった。


「…………」


 布団に入って横になると、すぐに睡魔が意識をもうろうとさせてくれた。

 その心地良い感覚に身を任せて、意識を深く落としていく。


 そして、俺は眠った――





 ――ちゅんちゅん。


 窓越しに見える雀の鳴き声で、目を覚ます。

 いつも通りの朝だった。目覚めはいい方なので、そのままぼんやりすることなく起き上がろうと体に力を入れる。


 その瞬間だった。


「……んっ」


 俺じゃない声が聞こえた。

 それから、お腹に圧迫感があって、身動きが取れないことに気付く。


「え?」


 誰か、いる。

 慌てて布団をめくると……そこには、彼女がいた。


「うへへ~」


 どんな夢を見ているのだろうか。

 しほが、俺のお腹を抱きしめてだらしない笑顔を浮かべていた――

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