四百四十七話 メインヒロイン「ゲームで面白いのは『上達』することじゃない。『勝つ』ことよ!」
しほのお泊りは初めてである。
だから、ちょっとだけ緊張していたし、楽しみにもしていた。
しかし……今日のしほは、俺じゃなくて結月の方に興味津々のようだった。
「やった! 北条さんに勝てる……すごく勝てる!」
「すいません、ゲームはやったことがなくて。そろそろ終わりますか? 下手すぎてしほさんも練習にならないでしょうし、楽しくないでしょう?」
「え? 楽しいわよ? 北条さんは分かってないわね……ゲームは『上達』するのが面白いんじゃないの。『勝つ』ことが楽しいのよっ」
今も二人はリビングでゲームをしている。
しほが持ち込んだ据え置き型のゲーム機で、甲羅とかバナナとかを投げまくるレースゲームをしていた。
俺も梓もたまにやる、定番のゲームだけど……しほは以外と弱いんだよなぁ。
誰よりもやり込むし、耳もいいのでゲームの状況把握には優れているけれど、どうも頭に血が上りやすいようで、すぐに冷静さを欠く。
一方、俺や梓はゲームに熱がない傾向にあるのか、プレイも冷静で……それが対戦ゲームだと良い方向に転がって、しほに勝ち越してしまうのだ。
うちのしぃちゃんは負けると拗ねる。
分かりやすく不機嫌になるかわいいところがある。
だけど、勝ったらものすごく上機嫌になるわけで……今日は結月をボコボコにして楽しんでいた。
「あ、でもそうよね……北条さんは楽しくないわよね? それなら終わるけど」
「いえいえ、わたくしはゲームに触れているだけで楽しいですよ? できればもうちょっとやりたいのですが……下手くそですみません」
「あら。そういうことなら付き合ってあげるわ。私、優しいからっ」
「本当ですか? ありがとうございますっ。さすが、しほさんはとても素敵です」
「……むふふ~」
あの二人はどういう関係性に落ち着くんだろうか。
なんだかすごく不思議な空間で、傍から見ててちょっと笑ってしまった。
ちょうどいいタイミングなので、台所で洗い物をしながら二人の様子を見守っていると……先程コンビニから帰ってきた梓が、アイスを食べながら俺の方に近寄ってきた。
「どうしかした? しぃちゃんが結月に夢中だから暇なのか?」
「それはおにーちゃんもじゃないの?」
「……まぁ、そうだけど」
いつもなら、梓はしほに絡まれている。それをイヤそうな顔をしながらも、なんだかんだ梓は楽しんでいたのだろう……今日は暇そうで、珍しく俺に話しかけてきた。
「ねぇ、おにーちゃんは嫉妬とかする? 霜月さんが他の人と仲良くしてたら、イヤな気分になるの?」
「……意地悪な質問をするなぁ」
苦笑すると、梓がニヤリと笑う。
暇つぶしに俺をからかおうとしているのだろうか。
小悪魔的な一面が顔を覗かせていたけれど……まぁ、残念ながら期待には応えられないかもしれない。
「やっぱり妬いちゃう?」
「うーん……いや、でもそんな感情はないかな。むしろ、しぃちゃんの交友関係が広がるのは、嬉しい」
「えー。なにそれ、すっごくつまんない。いい人すぎてきもい」
「そんな言い方しないでくれよ……梓の方はどうなんだ?」
「え? すっごい嫉妬するけど? 今も、結月おねーちゃんが霜月さんに盗られてムカつく」
「そっちに嫉妬してるのか」
もしかしたら結月は同性から人気のあるタイプなのだろうか。
自分の意見を主張せず、いつも相手のことを尊重して、やりたいことがあればどんなことでも付き合う……なるほど、そうやって結月のいいところを羅列してみると、友人としてすごくいいかもしれない。
……って、そうか。だから俺も、クラスメイトの花岸や伊倉から好意的に接してもらえるのか。
俺も彼女と似ているタイプなので、今言ったことは自分にも当てはまる。
中山幸太郎も、同性からは意外と受け入れられているので……俺たちみたいな意志の弱い人間も、悪いことではないのかもしれない――。
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