四百四十六話 おともだち
しほがお風呂から上がってきた。
「さっぱりしたー!」
やけにスッキリした顔でリビングにやってきたしほは、俺の前で止まってくるりと一回転した。
「幸太郎くん、綺麗?」
「……え。うん。しぃちゃんはいつも通り美人だね」
今更、何を聞いてるんだろう?
しほが綺麗なのは知ってるけど……と思って戸惑っていたけれど、彼女はどうやらそういう意図で質問したわけじゃないらしく。
「お、お風呂に入って体が綺麗になってる? って、聞いたつもりだったけど……美人なんて言われたらどうでも良くなっちゃったわ。うふふ♪」
ああ、そっちか。
それはもちろん、いい匂いがするし肌モスベスベしてそうだし髪の毛も艶やかで……ただ、気になるのは全体的に湿っぽいところかなぁ。
うん、明かに水気が拭えていない。
たぶんめんどくさくて適当に終わらせたんだと思う……そのせいで動くたびに髪の毛から水滴が落ちていた。
「あの、しほさん? 髪の毛、乾かした方がいいと思いますけれど」
結月がそれに気付いたみたいである。
お世話好きなので、隙が多いしほはかなり気になるようだ。
「えー? めんどくさいなぁ……いつもはママにやってもらってるわ」
「なるほど。だから性格が雑なのに髪の毛が綺麗なんだね? お母さんに手入れしてもらってるんだ。いいなぁー」
梓が霜月家を羨んでいる。
彼女もかなりのめんどくさがりやなので、そう思うのも無理はないか。
「幸太郎くん、私の髪の毛乾かしてみる?」
「俺が? いや、うーん……やったことないからなぁ」
しほの髪の毛に触りたくない、と言えばウソになる。
しかし、技術的な問題がやや心配だった。
梓よりは器用なので、この場にいるのが彼女だけなら俺がやるけれど……あと一人、すごく器用な女の子が都合よくいるわけで。
「結月、やってあげてくれないか?」
ちょうど梓の耳かきを終えた結月に声をかける。
すると、彼女は申し訳なさそうな顔でしほに目を向けた。
「わたくしがやってもよろしいのですか?」
「え? うん、いいよ? 北条さんなら上手そうだしいいんじゃない?」
「……幸太郎さんにやってほしいとか、そういうことじゃないんですね」
「幸太郎くんには後で綺麗になった髪の毛を触らせてあげるの」
「そういうことですか。それでは、結月が少しお手入れしますね?」
「はーい!」
元気いっぱいの声を上げて、結月の膝にちょこんと座るしほ。
結月は甘えられるのが好きなのだろう。嬉しそうに微笑んでいた。
「じゃあ、梓もお風呂入るね~。おにーちゃん、いつもみたいに覗かないでよ?」
「いつも覗いているみたいに言わないでくれ」
「えへへ~」
梓もお風呂に行って話し相手もいないので、なんとなく結月としほの様子を観察してみる。
「根本まで銀色……これは白銀でしょうか? 地毛がやっぱりその色なんですね。綺麗で羨ましいです」
「ありがとう。でも、私は黒髪にも憧れがあるから、北条さんのも羨ましいな~」
「そう言ってくださると、なんだか嬉しいですね」
「んっ。そうね……北条さん、やっぱり上手じゃない。ママといい勝負の手つきよ。マッサージされてるみたいで気持ち良いわ……天然の枕もあるし」
「そ、そこは枕じゃないですよっ」
……普段は臆病な一面もある二人。
意志が弱い結月も、他人を苦手とするしほも、学校では口数も少ない。
だけど、お互いに気を許しているのか……その表情は自然体だった。
やっぱり相性は良さそうだ。
この様子なら……俺、梓に続いて、結月もしほの友達になってくれそうな気がする。
俺と結月は、友達としてもうまくいかないけれど。
しほと結月が仲良くなってくれたなら、それはもちろん嬉しいことだった――。
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