四百四十四話 不適格おねーちゃん
足が痛い。
正座は慣れていないので、できれば足を崩したいけれど……梓がそれを許してくれなかった。
「おにーちゃん、分かってる? 結月おねーちゃんはすごく弱虫なんだよ? だから守ってあげないとダメなの。こんな夜に外に出したら、きっと悪い人にイタズラされちゃうよ?」
「あ、あの、梓さん? 擁護してくれるのは嬉しいのですが、わたくしって弱虫なのでしょうか???」
結月は梓の後ろでおろおろしていた。まぁ、うん……梓の言いたいことは分かる。
彼女は意志が弱いというか、すごく引っ込み思案で臆病なのだ。
「ごめん。ちょっと、しぃちゃんが泊まることになって頭がおかしくなってた」
「おにーちゃんってなんで霜月さんが関わると変になるの? もっとちゃんとして」
「……はい」
ぐうの音も出ないとはこのことか。
珍しく梓が正論を言い放っている。
「霜月さんも、ここは梓のお家なんだよ? 分かってる? つまり、霜月さんに決定権なんて何もないの、梓がこの家ではルールなんだよ?」
「いいえ、私がルールよ」
「なんで!? それっておかしいんだからねっ」
「……ねぇ、そろそろ正座をやめてもいい? 疲れちゃったわ」
「ダメ! 霜月さんはおにーちゃんをおかしくするから、もうちょっと反省してっ」
俺の隣にいるしほは梓に対して反抗的な態度を取っている。
しかし、説教されているにも関わらず、なんだか楽しそうでニコニコしていた。
「怒ってるあずにゃんもかわいいわ。さすが私の妹ね」
「妹じゃないもん!」
しほに反省の色は一切ないようだ。
その姿勢がまた、梓にとっては不服なのだろう。不満そうに唇を尖らせている。
「梓さん、しほさん、喧嘩はほどほどに……っ」
俺から見るといつものやり取りだけど、結月は二人の言い争いを見て戸惑っているようだった。
まぁ、そうか……普段の二人はとても大人しいので、こうやって威嚇しあう姿はなかなか見られない。
要するに、しほも梓も内弁慶なのである。
「結月おねーちゃん、大丈夫だよ。霜月さんはちゃんと言わないとダメな人だからっ」
「……ちょ、ちょっと待って! さっきから気になっているのだけれど、どうして北条さんは『おねーちゃん』なのかしら!? 私が姉なのだけれどっ」
「はぁ? 霜月さんよりは結月おねーちゃんの方が姉だよ?」
「な、なんで???」
「自分の胸に聞いたら?」
「たしかに胸は小さいけれど今は関係ないでしょう? ってか、あずにゃんも小さいじゃないっ」
「そういう意味じゃないよ! ……まぁ、結月おねーちゃんは引くくらい大きいけどね?」
「うぅ、気にしてるんだから引かないでくださいっ」
そして突然始まる『姉議論』。
そういえば梓って結月とキラリに対しては『おねーちゃん』と呼ぶんだよなぁ。
中学時代から二人に可愛がられていたから、きっと自然にそうなったのだろう。
もちろん『可愛がっている』という意味ではしほも負けてはない。
しかし、しほの場合だとお姉さんというよりは同級生の友達みたいなので、梓から見ると姉には見えないのかもしれなかった。
「わ、私もおねーちゃんって呼んで?」
「やだ。霜月さんは、霜月さんでいい。ってか、梓の方がむしろおねーちゃんだと思うから」
「意味が分からないわ。私が姉で、あずにゃんも姉? いいえ、あずにゃんは妹なのに、私も妹って……うぅ、つまりどういうこと!?」
「知らない。梓も分かんないっ。成績があんまり変わらないんだから、霜月さんが分からないことを梓が分かるわけないじゃん」
「おバカさんね。勉強しなさい?」
「こっちのセリフだもん!」
……本当に、目線が同じである。
高校生かどうかもちょっと怪しい言い争いをする二人は、残念ながらどっちも妹にしか見えなかった――。
いつもお読みくださりありがとうございます!
このたび、本作のコミカライズが決定しました(≧▽≦)
6月30日に一話がコミックライド様よおり公開いたします。
詳しくは僕のTwitterにあるので、ぜひよろしくお願いしますm(__)m
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