四百三十二話 キャンキャン吠えてたくせに
「もっと難しい人間だと思ってた」
キラリは、しほに対してそういう認識を抱いていたらしい。
一年生の頃、同じクラスにいても二人はまったく関わろうとしなかった。
その理由が今、明かされている。
「ほら、入学した直後とか、アタシから積極的に話しかけてたじゃん? 覚えてる?」
まだ、キラリが竜崎と出会ってばかりの頃か。
あの時はまだ竜崎がしほに執着していた時期である。
「りゅーくんが明らかに好意を寄せてた女の子だから、どういう子か気になって仲良くなろうとしたのに……すごく素っ気なくて『私は別の世界の人間ですから』みたいな空気を出してたじゃん? だから、感じ悪いなーって思ってた」
まだ、俺と話すようになる前だ。
今では信じられないが、霜月しほは無口で無表情で冷たい少女だったのである。
実際は、人見知りの口下手で、竜崎が苦手だから学校だとうまく話せなかっただけ。
しかし、異次元すぎる見た目のせいか、俺も彼女を『クールな少女』と勘違いしていた。
「これだから美人は嫌いなんだ――って。まぁ、今になって考えると嫉妬してたんだろうね。アタシにはないものを持っているから、羨ましかったんだと思う」
キラリはしほに対して複雑な感情を抱えていたらしい。
「でも、意外とポンコツじゃん。嫉妬して損した」
「ポンコツ!?」
ただ、キラリの言う通り……しほは意外と、親しみやすい女の子だ。
無表情で無感動だった『霜月さん』もすっかり過去の存在になっている。
今ではすっかり、愛されキャラのしほちゃんだ。
「幸太郎くん、聞いたでしょう!? この人、また私のことをバカにしてるわ……最初は褒めてたから許してあげようと思ってたけど、やっぱりダメ! 嫌い! や!」
「にゃはは。子供っぽいなぁ」
キラリがからかうようにクスクスと笑う。
それを受けて、しほは露骨にイヤそうな顔であっかんべーと小さくてかわいい舌を出した。
「ふーんだ。私は覚えているのよ? 急に話しかけて緊張して黙ってただけなのに『アタシ程度の人間と話したくもないってこと?』『同じ人間じゃん。少し綺麗だからって見下さないでよ』って、被害妄想してきた時からず~っと、なんか無理って思ってたんだからね!」
「……すごい言いそうだな」
キラリがそう言っている姿が容易に想像できる。
彼女は結構、間違っていることを間違っているとしっかり言えるタイプの人間だ。
つまり、しっかりとお説教してくるタイプなのである。
しほは説教が大嫌いなので、キラリのことを苦手と思うのも自然だと思った。
「い、言いそうって……本当に?」
「そういうところはあるよ。まぁ、俺は嫌いじゃないけど」
「はい、ダメー! 嫌いじゃないけどって言葉は禁止でーす。私以外に使わないでください。そうじゃないと私は拗ねまーす」
「……今のは霜月しほの言うとおりかな。そうやって手あたり次第に口説くのは良くないね。りゅーくんみたい」
「うん! 竜崎くんみたいですっごく……や!」
「それは良くないな」
竜崎に似ている、は一番言われたくないセリフだった。
「あと、私――『霜月しほ』ってフルネームで呼ばれるの、なんかすっごく苦手だなぁ。どうしてあなたは人の嫌がることばっかりしてるの?」
「そんなの初耳なんですけど? ってか、じゃあなんて呼ばれたいわけ? そしてあんたはアタシのことなんて呼んでくれるわけ?」
「普通に『しほ様』でいいわよ?」
「まったく普通じゃない件について」
「それで、あなたのことはキラキラネームのきらりんってどう?」
「は? キラキラネームって言わないでくんない? アタシが一番気にしてんだけど」
「ひぃいい! マジギレよっ。幸太郎くん、助けてっ。野蛮だわ」
まるで小さな子犬である。
キャンキャンと吠えていたのに、ちょっと近づかれるとビビる。
そんなしほを見て、ついついほっぺたが緩んだ。
相変わらず、しほは可愛すぎる――。
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