エイプリルフール特別企画 エイプリルツンデレ
いつもお読みくださりありがとうございます!
エイプリルフールの特別小話です。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
4月1日のこと。
いつも通り、のんびりと家で過ごしていたらしほが遊びにやってきた。
「幸太郎くん、今日は何の日でしょうかっ!」
到着早々、彼女は俺の部屋でゴロゴロとくつろぐ。
まるで自分の家のように我が物顔で、俺の布団に潜り込んでいた。
「今日は……しほが無事に三年生になれて良かったねっていう記念日?」
「無事にってどういうこと!? 私はちゃんと安全で安心に三年生になれたもんっ。成績も平均点くらいだったし、留年は二年生になるときよりは安全だったわ」
「二年生に上がるときは以外に危なかったのか……」
「当時は若かった……って、そういう話じゃなくて!」
受験生になる今年、勉強も頑張りだしたしほにとって進級は容易いことだったようだ。
わざわざ記念するほどのことではないようである。
それでは、何の日だろうか。
「今日はね――『エイプリルフール』なの」
……そういうことか。
たしかに、4月1日といえば『エイプリルフール』である。
「つまり、ウソをついてもいい日!」
「まぁ、そうだけど……俺に宣言したらウソの意味がなくなんじゃないかな」
ウソをついて驚かせたいのであれば、何も言わない方が都合が良かったはず。
エイプリルフールを知ってしまった以上、俺はしほの発言に気を付けるだろう。
そう思ったのだけど、どうも彼女は『騙したい』とは思ってないようだ。
「だから、私が言うことは全部ウソだからねっ? それをちゃんと理解しててね?」
念押しするように、エイプリルフールであることを強調して。
それから、彼女が言ったのは――こんなことだった。
「幸太郎くんのことなんて大嫌いなんだからねっ!!」
「――え!?」
いきなりの発言に、心臓がねじれそうになる。
嫌いと言われて、一瞬もう死んでしまおうかと思ったのだが、すぐに今日がエイプリルフールであることを思い出した。
「って、そうだ。今日はエイプリルフールだから、しほの発言はウソ……つまり、俺が大好きってことか」
「ううん、だいっきらい!」
「――ぐふっ」
分かっている。
嘘だって、ちゃんと理解している。
でも、しほの『嫌い』という発言は鋭利な刃物のように、心を切り裂いていた。
「幸太郎くんなんて本当に、本当に、本当に、だいっきらいだもーん」
「くっ……そ、そうなのか?」
「もう、どうしようもないくらいに、嫌いだよ?」
「いや、落ち着け。今日はエイプリルフールだから……!」
「幸太郎くんなんて、いなくなっちゃえばいいのにねっ」
「っ……!!」
嘘って分かっているのに、体がアレルギー反応を起こしたみたいに過剰なリアクションをしていた。
俺にとってしほの『嫌い』という言葉は、それくらい重いのである。
そんな俺を見て、しほはものすごく楽しそうだ。
「っ~~!! 幸太郎くんがすごく困ってる……私の言葉で、すごく動揺してるっ。むふふ、たまにはこういうのも最高だわ♪」
たまに出るんだよなぁ。
しほの、ちょっとイタズラ好きで、意地悪な部分。
若干、ヤンデレ風味というか……しほはどうも、俺が困っている顔が好きみたいである。
(……やられっぱなしは、ちょっとなぁ)
正直なところ、別に悪い気分ではない。
しほに意地悪されるというのも、俺だけの特権と思えるので、たまにであれば嫌いじゃない。
だけど……俺だけが困るなんて、それはちょっと不公平だと思ったので。
「――それなら、俺もしほを大嫌いになってもいいか?」
ささやかながらに、俺からも反撃をした。
今日はエイプリルフール。つまり、嘘なので……『もっと大好きになっていいのか』という意味になる。
そうなる、はずだが。
「えー!? う、嘘だから!! 私、幸太郎くんのこと大好きだよ!? き、ききき嫌いなんてなっちゃイヤ……だめっ。ごめんなさい、幸太郎くんのこと大好きで大好きで大好きだから……嫌いにならないでぇ」
たった一言。
しかも『嫌い』とは断言していない。
質問しただけなのに……『嫌い』という単語だけで、しほは俺の千倍くらい動揺していた。
「エイプリルフール終わり!! ほ、本当は大好きだから、私のことも大好きに戻ってくださいっ」
泣きそうな顔で俺に、子供が駄々をこねるようにベッドの上でジタバタするしほ。
「うわーん、ごめんなさいぃいいいいいい!!」
「わ、分かってる。俺も嘘だから、落ち着いてくれっ」
ものすごく打たれ弱いしほに『嫌い』と言う言葉は強すぎたみたいだ。
そして、来年以降『エイプリルフール』でもしほがウソをつくことはなくなったのは、語るまでもない物語である――。
(終わり)
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