四百二十九話 意外な相性
市の図書館に来るのは随分と久しぶりだった。
中学生の時以来かな? あまり広い場所ではないけれど、ギッシリと本が詰まっている空間を見ると、なんだか落ち着いた。
俺の部屋も本が多いので、自分の部屋――までとはいかないけど、少なくとも賑やかなお店に比べたらとても居心地が良かった。
「おー。図書館って感じがするわ」
「まぁ、図書館だからね」
もしかして、彼女は初めて来たのだろうか。
忙しなく周囲をキョロキョロと見渡している。
黒縁の眼鏡をかけた、ジャージ姿の銀髪少女。
見た目だけならとても派手なのに、服装は親しみやすいという違和感。
その異様な雰囲気が目立つのか、図書館にいた人たちの視線をしほが集めてしまっていた。
だからだろうか。
偶然、図書館にいた彼女に見つかってしまったのである。
「あれ? 霜月しほ……と、こーくんじゃん」
声を掛けられなければ、気付かなかった。
ちょうど、死角。俺としほが歩き去ろうとした本棚の影から、声をかけられる。
足を止めて、振り向くと……そこには赤縁の眼鏡をかけた、茶髪の明るい少女がいた。
「……キラリ?」
「うん、浅倉キラリでーす。いぇーい」
笑顔で横ピースをするキラリ。
相変わらず変な距離感にいる彼女に、俺は苦笑してしまう。
正直、彼女との接し方がよく分からない。竜崎と仲直りして以降、中学の時みたいなマイペースさが戻っていて、なかなか対応が難しかった。
「今日は霜月しほと一緒じゃん」
俺の次に、彼女はしほに視線を向けた。
……そういえば、しほとキラリが会話しているところを、俺は見たことがない。
初対面ではないはずだ。去年、同じクラスだったのだから、お互いに認識はしているだろう。
でも、二人が絡んでいるのを見るのは初めてだった。
「……幸太郎くん、危ないわ」
キラリに視線を向けられた瞬間だった。
しほが一歩前に飛び出たかと思ったら、まるでキラリから俺を守る様に手を広げた。
「ギャルよ!」
「……ぎゃる?」
「ギャルなの!」
「いや、そのワードで全てを察するほど、しほの考えは理解できないよ?」
「えー!? 以心伝心してないの?」
「しほの思考は分かりにくいんだよなぁ……たまに意味が分からなくて」
「え? もしかして私……バカにされてる? あれー? 幸太郎くんと分かり会えてると思ったのに……おかしいなぁ」
「これから年月をかけて分かり合っていけばいいんじゃないかな」
「……むむっ。素敵な言葉ね、賛成よ。じゃあ、行きましょう? 私と幸太郎くんが、ちゃんと通じ合えるように――ね?」
「いや、おかしくない? アタシのこと無視しないでくれない?」
梓にもよく怒られるのだけど。
たまに、意図せずしてしほと俺は二人だけの空間を作ることがあった。
今もそうなっていたけれど、キラリがちゃんと突っ込んでくれたので我を取り戻せた。
「あ、そっか。しほ、キラリもいるから無視したらダメだよ」
「ギャルなのに?」
「しほは『ギャル』にどんなイメージがあるんだ……」
「こう、なんというか……えっちな感じ?」
「偏見じゃん! アタシ、そうでもないけど!? うわぁ、霜月しほって清純そうな見た目してるくせに、意外と頭の中でそういうこと考えてるんだ……ムッツリじゃん」
「違うわ。私はムッツリじゃないもんっ! ほら、眼鏡をかけているのよ?」
「……だから何?」
「文学少女っぽいでしょう? だから清純よ」
「うわぁ、バカっぽい! メガネかけてるのにバカが隠せてないっ」
「バカじゃないもん!! ……き、嫌い。やっぱり浅倉さんって嫌いだわ。前から思ってたけど、わたしとすごく相性が合わない感じがするっ」
「ほーん? まぁ、アタシも嫌いっちゃ嫌いかな? 性格が子供っぽいし、あとヤンデレっぽい雰囲気も合ってあんまり好きじゃないんだよね~」
「「……ふんっ!」」
勢いよく会話していたかと思ったら、同じタイミングでそっぽを向いた二人。
そんなしほとキラリを見て、俺思わずぽかんとしてしまった。
意外だ。しほもキラリも、普段はあまり人に対して悪口を言わない。
少なくとも、初対面の人に『嫌い』なんて言わないのに。
この二人は、もしかしたら相性が最悪なのかもしれない――。
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