四百二十八話 ダメ人間街道まっしぐら

 夏休みに入ってから一週間が経過していた。

 そしてしほは、絵にかいたようなダメ夏休みライフを送っていた。


「幸太郎くん、私がきたー!」


「幸太郎くん、ゲームのお時間よ!」


「幸太郎くん、お昼ご飯はそばにしましょうっ」


「むにゃむにゃ」


「ふぇ? もうおやつの時間? じゃあ起きるぅ……」


「幸太郎くん、ゲームのお時間よ! 午後の部!」


「幸太郎くん、もうママが迎えに来てるから帰るね。ばいばーい!」


 信じれないことに、この一週間はほとんどこうだった。

 朝来て、ゲームして、昼食を食べて、お昼寝して、おやつを食べて、またゲームをして、帰る。


 彼女以上に、高校生の夏休みを楽しんでいる人間なんていないのではないだろうか?

 そう思ってしまうくらいに自由な毎日を過ごしていた。


 さすがにこれを一カ月半も繰り返すと、後戻りできなくなるような気がする。

 ただでさえ、しほはダメ人間気質があるので……これ以上悪化させたくない。


 いや、正直なところ、だら~っとしているしほも、かわいいとは思っている。

 ただ、本人としてもダメ人間にはなりたくないようなので、甘やかすのは良くないだろう。


 そういうわけで――彼女を外に連れ出してみることにした。


「幸太郎くん、ごちそうさま!」


 昼食を食べ終えて、しほは早速ソファで横になろうとしている。

 まるで自分の家みたいにくつろいでいた。この子には警戒心がないのかもしれない。


「うわぁ。食べてすぐに寝たら太るらしいよ?」


「私はいくら食べても太らない体質だからセーフ」


「出た! 自分だけ大丈夫理論だっ」


 梓はそれを見て若干引いていた。

 このままだとしほが眠りそうだったので、その前に声をかけることに。


「しほ、今からちょっと図書館に行くんだけど……しほも行かないか?」


「……図書館デート!?」


 いや、デートとは言ってないけれど。

 しかし、しほが目を輝かせて跳び起きたので、そういうことにしておこう。


「わ、わ、わ! どうしよう……ジャージだけどいいの? もっと文学少女っぽい見た目の方が幸太郎くんの心を掴めるかもしれないのにっ」


「もう掴んでるから大丈夫だよ」


「うぐっ。発作が……でも、嬉しい♪ 幸せすぎるぅ」


「おぇ~。いつも言ってるでしょ? イチャイチャするなら梓がいないところでやってよ! もうっ……バカップルはこれだから」


 梓がピンク色の空気に耐え切れなくなって、足早にリビングから出て行った。

 彼女は図書館に興味がないらしい。だったら、しほと二人きりのお出かけになりそうだ。


「せめて、メガだけででもかけておきたいわ。文学少女っぽい! 幸太郎くん、ある?」


「……梓の部屋に、だてメガネっぽいやつがあったような」


「それだー!」


 そう言って、しほが梓を追いかけて部屋のある二階へと上がっていく。


「うにゃー!」


 梓の叫び声が聞こえた、十秒後くらいにはもうしほが戻ってきた。

 目元には、黒ぶちの眼鏡がかかっている。


「変な声が聞こえたけど、何かあった?」


「あずにゃんがナマイキにも抵抗してきたから、こちょこちょで討伐して剥ぎ取ってきた!」


「そんな、追剥みたいな……」


「違うわ。私はハンターよ? モンスターじゃなくて妹を討伐しただけ」


 そっちの剥ぎ取りだったか。

 最近ハマっているらしく、梓とも協力して色々やっているので、俺もそばで見てゲームシステムはなんとなく覚えてしまっている。


 この夏休みで最強のハンターになると、しほは言っていた。

 ゲームはいいんだけど、少しは勉強もしてほしいなぁ――

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