四百十九話 デウス・エクス・マキナ その3
そろそろグラウンドに到着する。
遠目にはもう女子たちが試合をしている姿が見えた。
その中に一つ、派手なピンク色が見える……胡桃沢さんがグラウンドにいた。
そっか、今は俺たちのクラスも試合をやっているんだっけ?
「さて、このあたりで総括といこうか」
色々と語っていたメアリーさんも気が済んだらしい。
「今まで、キミのラブコメはワタシ好みの歪んだ物語だったけれど……リョウマが主人公ではなくなったあたりから、その歪みがなくなっている」
もうすぐ会話も終わる。
だから、いつもであれば……メアリーさんは不穏を匂わせるような発言をするのも、このタイミングだった。
「……メアリーさんにはそう見えているんだ」
「ああ、ワタシにはこう見えているだけで、現実にはどうかは知らないけれどね」
少しだけ、身構えておく。
「おめでとう。コウタロウ……キミのラブコメは邪道から王道へと進化――じゃなくて、退化したのか。物語を俯瞰して、ハーレムに反逆するような『アンチハーレムラブコメ』はもう終わっているんだよ」
だけど、警戒する俺をメアリーさんは鼻で笑って、こう言った。
「今のコウタロウの物語は――ただの日常ラブコメだ」
退屈そうに。
くだらなそうに。
うんざりとしたように。
メアリーさんは、ため息をつく。
「はぁ……残念だよ。こんなくだらないスポーツ大会なんかを長々と語るなんて、ありふれたラブコメでしかないじゃないか。しかもそこで覚醒を果たすとか、バカバカしい。もっとドロドロした展開になればいいものを……爽やかすぎて、本当に反吐が出る」
期待外れ。そう言わんばかりの態度に、俺は苦笑してしまった。
「……それは、俺にとっては嬉しいことだけどなぁ」
「どこかで見たことあるような凡作だ。テンプレの塊で満足するのかい?」
「……俺の物語は駄作でいいよ。ストーリーに山も谷もなくていい。平坦で、退屈で……平穏で、幸せであるなら、それが一番なんだから」
「ファック。そんな作品、クソくらえ」
「口が悪いな……だいたい、テンプレで何がいけないんだ? みんなが求めている作品なんだから、それでいいと思うけど」
「飽きたんだよ。読まなくても先が分かるから」
「……物語を読みすぎた弊害か」
「いや、作っている弊害だね。本当に物語が好きなら、クリエイターになんてならない方がいい……構造を理解すると物語の面白さは半減する」
ごもっとも。
その言葉に反論はなかった。
「結局――物語のオチは、いつだってありふれている」
古今東西、物語には様々な形があるけれど。
不思議と物語の構造は世界各地で共通しているものが多いのだ。
「『デウス・エクス・マキナ』」
それは、最も古い物語――神話における物語の構造の一つ。
「意訳すると『機械仕掛けの神様』。和訳すると――どうなると思う?」
「『なんやかんやあったけど、神様が全部解決しました』――ってところかな?」
「正解。一字一句、ワタシと同じだ」
過去に色々ありました。
だけど、最後には全知全能の神様が出てきて、解決しました。
それを『デウスエクスマキナ』と呼ぶ。
「コウタロウとシホにもなんやかんやあったけど、神様――つまり作者が全部なんとかしてくれる」
メアリーさんは、うぇ~っと気持ち悪そうな顔でそう言葉を吐き捨てた。
「そんな作品、本当につまらないよね」
その言葉を最後に……メアリーさんは、俺から離れていくのだった――
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