四百十話 クラス対抗スポーツ大会 その15
どうにか試合に継続して出場できたけれど。
残り時間はあと十分だけ。正直なところ、体力的に結構きつい。
やる気に乏しく、試合でパスばかりしていたとはいえ、この炎天下の下にいるだけで体力が削れていっているような気がした。
伊倉がバテるのもよく分かる。
普段から動き慣れている運動部の面々は元気だけど、俺を含めて帰宅部や文化部の生徒たちはかなりきつそうだ。
25分を4試合。冷静に考えてみると、結構ハードだと思う。
それなのに、俺と同じ帰宅部の竜崎はまだまだ元気だった。
やっぱり彼のスペックは普通よりも高いのだろう。
「なんだよ、交代しないのか? そのまま引っ込んでくれても良かったんだが」
ニヤリと笑いながら、再び俺の方へ歩み寄ってくる。
この試合が続いている間は、竜崎は俺から離れるつもりがないようだ。
「……さっきの会話、聞こえてたぞ? 意外と小賢しいところもあるんだな」
持ち前の難聴スキルはどこへいったのか。
他人に興味を持ち始めたようで、俺は嬉しいよ。
盗み聞きはあまり褒められたものではないけれど。
「見直したぜ。お前も、人間なんだ」
「竜崎には俺がどう見えてるんだよ」
試合が再開する。
ボールの動きに合わせてポジションを移動すると、竜崎がそれに追従して邪魔してくる。おかげでこの試合は、前回ほどボールが回ってこなかった。
「お前はとにかく普通で、主体性がないロボットみたいな人間だ。自分からは決して動かないが、使命感や、やるべきことがあれば、それを遂行することだけに集中する。もしお前が兵士ならさぞ優秀だっただろうが……命令がなければ何もできない『モブ野郎』と、俺は思っている」
「……よく見てるな。結構、当たってると思うよ」
「――ほら、反論してこねぇ。たまには言い返してみろよ。自分がバカにされて悔しくないのか? 怒りは感じないのか? そういうところがロボットみたいで気持ち悪いんだよ」
ああ、そうだな。
その認識は間違っていない。
だからこそ――言葉だけでは説得できないと、分かっているんだ。
「でもな、竜崎……俺は何も思っていないわけじゃないよ。ロボットなんかじゃないんだ」
静かに、訂正するように。
反論と言えるほど強い口調ではない。
「おい、お前――」
諭すような俺のセリフに、竜崎が顔をしかめて何か言おうとした、その瞬間だった。
「中山っ!」
花岸が俺にボールを回してくれた。
いつの間にか俺たちのクラスは攻められていて、ボールはゴール付近にある。花岸が大きく蹴ったボールは緩やかな弧を描いて俺に放たれていた。
「あいつ、バカだな」
それを見て竜崎が鼻で笑う。
彼はきっと、こんなことを思っているだろう。『俺のほうが体格がいいし、中山は強く当たってこないからボールを奪うのは簡単だ』――と。
そうやって舐めてくれるから、お前との対戦は本当にやりやすいよ。
甘く見てくれているからこそ、体格が劣っていても優位に立てる。
俺が強く当たってこないと決めつけているから……体の入れ方が甘い。
お前の動きは、よく見えているよ。
(だってずっと、お前の物語を……人生を、見てきたからな)
だから、負けたくないって、そう思えるんだ。
「――っ!!」
息を止めて、ジャンプする。
ボールを奪おうとする竜崎を吹き飛ばすように体を入れて、背中で彼をぐいっと押した。
「ちょっ」
竜崎は不意打ちのように感じただろう。
俺に押しのけられて体勢を崩している。
その隙に、ボールを奪いとった。
「舐めんなよ」
そう呟いて、尻もちをつく竜崎を置いて走り出す。
ボールはもちろん、俺の足元にあって。
そのままゴールへと、真っすぐに。
(決めろ)
心の声に、従って。
(お前が、お前の物語の、主人公になれ!)
俺は、生まれて初めて……自分本位な行動を選択したのである――
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