四百二話 クラス対抗スポーツ大会 その8


 運動部が多いおかげか、試合は三組が優勢だった。

 サッカー部の男子はコートの半分以上先に進んではいけない、というルールもあるからだろう。野球部の花岸や、その他の運動部が大活躍していた。


「お~。また入った……幸太郎くんのクラスって強いのね」


 しほもそれを見て関心している。

 小さく拍手しながら動き回る男子生徒たちを見ていた。


「うちのクラスがボコボコだわ」


 ちなみに、対戦相手は一組――しほの所属クラスである。結構な点差が開いていて、一組の男子たちは少し意気消沈しているように見えた。


「幸太郎くん、遠慮せずにもっとボコボコにしてね?」


「いやいや。自分のクラスを応援してあげて」


「わたしが応援しているのはあなただけよ」


 当たり前のように。

 さりげなく、大して考えることもなく、彼女はあっさりとそんな嬉しいことを言ってくれた。


「う、うん……ありがとう」


「ええ、がんばって!」


 そんなやりとりをしていると、不意に声がかかった。


「中山~。お~い」


 白線の中から花岸が俺を呼んでいる。

 いつの間にかもう時間が経過していたようだ。花岸の隣には膝に手をついた伊倉がいて、こちらに「早く来てくれ」と言わんばかりの視線を送っている。


「出番みたいだから、行ってくるよ」


「はーい。いってらっしゃ~い」


 立ち上がると、しほが小さく手を振って俺を見送ってくれた。

 その様子を周囲の生徒たちが見ているような気がする……少し居心地が悪くて、足早に花岸の方に駆け寄った。


「中山、遅いな。もう十一分が経過しているぞ?」


「細かいもやしだな。一分くらいいいだろ……中山、気にするなよ! ほら、伊倉はさっさと帰れ」


 俺と入れ替わるように、伊倉がコートの外に出て行こうとしている。

 何か一声かけようかと言葉を探していたら、彼の方から喋りかけてくれた。


「結構、動きが激しかったぞ。運動部のバカ共に巻き込まれて怪我なんてしたら大変だからね……彼女に心配かけないように、気を付けてくれ」


 思ったよりも優しい言葉をかけてくれた。それは嬉しいけど、『彼女』とはしほのことかな?


 付き合っているわけではないので、頷くのには抵抗がある。でも、第三者が見たらそう思うのは当たり前なので、曖昧に笑ってごまかしておいた。


「……えっと。うん、ありがとう」


「それじゃあ、後は任せた。はぁ……早く帰りたい」


 ため息をつきながら歩き去る伊倉。


「あいつ、大して動いてなかったのになんであんなに疲れてるんだ?」


「……伊倉なりに動いてたんじゃないかな」


 それを花岸と一緒に見送ってから、コートに入った。


「よし! 中山、お前は伊倉と違って動けると思うから、前にいとけ」


「え? いや、それはちょっと荷が重い……」


「大丈夫、俺とか他の連中がパス出すから、遠慮なくゴールしてくれ!」


 いつものように豪快に笑ってから、俺の背中を叩く花岸。


「彼女にいいところ見せてやれよっ」


 ……ああ、なるほど。やけに俺を活躍させようとしていると思っていたけれど、そういうことか。

 花岸なりに気を遣ってくれているみたいだ。


 その言葉には嫌味がないので、からかっているわけじゃないことは分かっているけれど……自信はちょっと、なかった。


(自信がないといけないのか?)


 と、またしても言い訳に逃げようとする俺の思考を、心の声が遮った。


(がんばることに、自信は関係あるのか?)


 ……うん、そうだな。やっぱり俺は間違っている。

 自信がなくても、がんばることくらいできるのだから――

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