四百話 クラス対抗スポーツ大会 その6
四百話 クラス対抗スポーツ大会 その6
花岸と伊倉と体を動かしていたら、すぐに俺たちのクラスの試合時間となった。
「伊倉、怪我しても知らねぇぞ?」
「僕は試合に出ない」
「残念ながら、みんな試合に出ないといけないルールなんだよ」
「え? そういうルールがあるんだ」
花岸の説明を聞いて、初めて知った。
「中山も知らなかったのかよっ。一応、全員が十分以上は試合に出ないといけないらしいぜ? 後、サッカー部は一度に二人までしか試合に出れないらしいから、お前らもスタメンじゃないか?」
まぁ、全クラスとの総当たり戦なので、出番がないとは思っていなかったんだけど……思ったよりも、試合に出る時間は多そうだ。
「うちのクラスのサッカー部は四人。試合に出れるのは二人まで。男子は全員で十五人。サッカーは十一人でやる競技だから……つまりサッカー部以外の補欠は何人だ?」
「二人だよ」
「……計算早いな。さすがメガネ! 天才だな!」
「小学生レベルの算数だ。分からない君がバカなだけで、僕は天才じゃない。あとメガネは関係ないだろ」
サッカー部を除いて、二人は試合に出なくていいのか。
それなら、まぁ……ずっと試合に出ている、というわけでもないかな?
俺は別に運動ができる方じゃないので、優先されるということはないはず。
そう思っていたけれど。
「まぁ、伊倉は見た目通りサッカーも下手だから補欠の方がいいけどな。中山は結構動けそうだし、試合でもがんばれよ!」
なぜか、花岸からの印象は良かった。
彼の目には何が見えていたのだろう?
「俺も、伊倉と同じくらいのレベルだと思うけど?」
「そんなわけないだろ(笑) お前、結構筋がいいよ。動きが素直っていうか……無駄がない。帰宅部なのがもったいねぇよ」
「うーん……そうかなぁ???」
野球部で、生粋のスポーツマンの花岸がそう言うのなら、そうなのかもしれない。
でも、あまり納得はできないというか……自分のことは平凡な人間だとばかり思い込んでいたので、そんなに高評価を受けるとなんだか居心地が悪かった。
俺は、そんなキャラクターじゃない。
(キャラクターって、笑わせるなよ)
……おっと。そうだ。
頭の中で響いた声が、俺の思考を矯正してくれた。
またしても、自分を勝手に決めつけようとしていた。
悪いクセだと思う……それを反省しながら、ひとまず花岸の言葉にはちゃんと頷いておいた。
「出番があれば、がんばるよ」
「おう! 三組って運動部が多いから、ガチで優勝狙えるぜ!!」
「くそっ。暑苦しいクラスに僕を配属した教員は誰だ……うんざりする。中山もそう思うだろ? いや、そう思っていてくれ……数少ない非・運動部として君は僕の仲間だ」
ああ、なるほど。
さっきからやけに伊倉が同意を求めてくると思っていたけれど、そういうことか。
運動部じゃない者同士として、彼は俺に仲間意識を覚えていれているらしい。
それは嬉しいけど、伊倉はちょっとひねくれ過ぎているような気がする。
「俺は別に、普通かな。花岸みたいに話しかけてくれるとありがたいし」
「ふむ。君はどうも、僕より人間性が高すぎるな……とはいえ、花岸や他のむさくるしい連中に比べて暑苦しくない。そういう点において不快感はゼロだから、これからも仲良くしてくれよ」
あれ? 別に同調したつもりはなかったけど、伊倉にもなぜか気に入られているような気がした。
花岸に続いて……友人に近しい存在が、もう一人増えたのかもしれない。
(モブキャラのような無価値な人間に二人も友達ができるわけねぇだろ)
ああ、そうだな。
言われなくても分かっているよ。
俺はもう、モブキャラではない。
いや、最初からモブキャラだったわけでもなかったのだろう。
自分で勝手に、モブキャラだと思い込んでいただけなのだから――
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