三百九十六話 クラス対抗スポーツ大会 その2


 自分のクラスの試合を待っていたら、いきなりキラリに話しかけられた。


「いやー、10日後にはテストがあるのにこの学校は何を考えてるんだか。まぁ、アタシは勉強なんてあんまりしないけど」


「そうなのか?」


「嘘だよ? 勉強はめっちゃするから」


「どっちなんだ……」


「にゃははー。どっちか知りたいならもっと食いつけよっ」


 軽く肩を小突かれて、姿勢を崩しそうになる。

 またしても不意打ちだった。ギャルキャラをやめたとはいえ、まだ距離感の近さは健在だったみたいである。


「どうせなら去年の宿泊学習みたいな大きめのイベントだったら良かったのに。スポーツ大会なんて暑くて疲れるだけじゃん?」


「……確かにそうかも」


 頷くと、キラリは軽やかに笑った。


「おーい、霜月しほじゃないとリアクションが薄いのは相変わらずかな? もうちょっと相手に興味を持っているふりができないと、大人になった時に苦労しちゃうぞ~?」


「リアクション……薄いか?」


「それはもう、話しかけるのが全然楽しくないな~って思うくらいには」


 ハッキリそう言われると、逆に不快感もないから不思議だった。

 そうか。俺って話しかけてもつまらない人間なのか。


「いや、逆にありかな? リアクションがなさすぎてこれはもうむしろ面白いかもしれないね」


「だから、どっちなんだよ……」


 キラリがよく分からない。

 会話していてもつかみどころがないというか、煙に巻かれているみたいで会話のテンポが噛み合っていないような気がした。


 この先も上辺だけの会話になるのだろうか?

 だとしたら、あまり続けても仕方ないな――と、思った矢先で。


「それで、二年生になったけど楽しい? 新しいクラスとかどんな感じ? そういえば霜月しほとは違うクラスになったみたいだけど、気持ち的に変化はあった?」


 いきなり本題っぽいことを口にするから、キラリとの会話は難しかった。

 ギャルキャラではなくなって以降、中学時代のようなマイペースさが色濃くなっているような気がする。


 それはもちろん、悪い変化ではないだろう。

 キラリらしい立ち振る舞いだとも思った。


「……二年生は、思ったよりも普通だったかな。新しいクラスも、居心地は悪くない」


「ふーん? それで? いつもの玉虫色の意見だけじゃなくて、もうちょっとないの?」


「後は……やっぱり、しほと違うクラスになったのは寂しいかも」


 素直に、思っていることを伝える。

 そうすると、キラリが目を丸くしてびっくりしたような表情を浮かべていた。


「あ、あのこーくんが『寂しい』って感情を手に入れてるっ」


「俺にだってそれくらいあるよ……」


 キラリは俺のことを何だと思っているのだろう?

 それこそ、モブキャラとまでは言わないけれど、どこにでもいるような普通の人間だいうのに。


「いやいや。結構、こーくんは変だよ? 確かに感情はあるかもしれないけど、顔にも出ないし、言葉にもしないし、全然分かりにくいから」


 ――いや、違った。

 俺は割と普通の人間だと、自分の認識ではそう思っていた。


 だけど、キラリからはそう見えていなかったようだ。


「普通に見えるだけで、こーくんは普通じゃない……ってか、普通の人間なんているの? みんなそれぞれに特徴があるんだから『普通』なんて言葉でくくるのは難しいよね」


 彼女は、俺の思想を否定している。

 人間をキャラクターに記号化して、それに当てはめることで他者を理解しているつもりになっている俺とは違って、キラリは個人それぞれにちゃんと目を向けている。


 かつて、自分をギャルキャラに記号化して、捻じ曲げた過去があるからだろうか。その観点には俺にないもので、聞いていて興味深かった――

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