三百九十話 野球回
しほは語る。
「名作と呼ばれるアニメ作品にはね、必ず当てはまる共通点があるの」
セミがむせび叫ぶ炎天下。
木陰で肩をグルグルと回しながら、彼女は更に言葉を続ける。
「それはね――何故か『野球』をしていることなの!」
ものすごくふわふわしたことを言っている彼女の言葉は、聞いていてすごく力が抜けるから不思議だった。
……と、いうことで俺たちは運動公園に来ていた。しほのお母さんの好意で車で送ってもらったのである。
その際、霜月家にある野球道具も一式持って来ていたので、野球の準備は万端だった。
(誰もいないけど、いいのかな……)
暑すぎるからなのか、周囲に人が見当たらない。
屋内施設とか、プールとかにはいるようだけど……こんなに暑いのにわざわざ炎天下で遊ぼうとする人間の方が、珍しいのだろう。
「霜月さんって本当におバカさんだねー」
やんわりと笑う俺の隣では、梓が呆れたように息をついている。
でも、梓がその言葉を使う権利はないような気がする……。
「あら。私よりテストの成績が悪い負け猫ちゃんが何か言ってるわ」
「て、テストの点数は関係ないもん! 常識的な知識はちゃんとあるから……ってか、せめて犬にして!」
「にゃんにゃん♪って可愛い鳴き声ばかり上げて……たまには犬らしく吠えなさい?」
「……おにーちゃん、霜月さんって何言ってるの? 全然梓と会話が通じないんだけどっ」
いや、しほだけじゃなくて俺には二人の会話がちょっとよく分からない時があるよ。結構、似ている部分が多い二人でもあるので、たまについていけない時があった。
まぁ、成績も若干梓が悪いとはいえ、そこまで大差があるわけじゃない。
要するに、どっちもどっちなのでこの件に関してはないも言わないでおこう。
「それで、野球がなんだっけ?」
話題の内容を本筋に戻してあげる。
そうすると、しほも何が言いたかったのかを思い出したのか、すぐに話を続けた。
「そう! ネットで語り継がれる迷信なのだけれど『野球回のあるアニメは神作品』と言われているの」
「うーん……そうなのかな? そうでもないような……」
しほと一緒に見ている作品のいくつかが頭に浮かんだけれど、かといって全てが必ずしも野球をしているのかと言うと、そうでもない気もするなぁ。
「だから私は野球がしたいの」
「『だから』ってせちゅじょくし……こほんっ。接続詞、間違えてない?」
「あ、私にバカって言われたから頭の良さそうなワード使ってるの? あずにゃんって本当に可愛らしいおバカちゃんね」
「ぅぐっ……き、嫌い! 梓、霜月さんみたいに茶化す人、大っ嫌い!!!」
「でも私は好きだから関係ないわ」
「うわぁ……おにーちゃん、この人無敵すぎて梓の意見が全く通らないよっ」
……確かに、言われてみるとしほって結構、頑固なところもあるのか。
かっこよく言うと、自分を貫いている。そういうところは嫌いじゃなかった。
「こういう一面もしほの魅力だな」
「こ、幸太郎くんったら……♪」
「おえー。いきなりラブコメしないでよ! ただでさえ暑いのに、これ以上熱々なことしないでっ。梓が熱中症になるから!」
熱中症はダメだな。
うん、こういう日は気を付けないと。
(……でも、蒸し暑い室内にいるよりは、まだ外の方がいいのかな)
暑いとはいえ、風もあるおかげか木陰にいると不快感は少ない。
クーラーの壊れた室内にいるよりかは気分も快適だ。
家の中にいても油断すると熱中症は起こすらしい……そう考えると、水分補給を怠らないように気を付ける外の方が、逆に良かったかもしれない――
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