三百八十話 俺のラブコメ
結局――根底にある問題は『自尊心』の低さ。
しほとの出会いを経て、自己否定と卑屈さが緩和しているけれど……しかし、自己を肯定するスキルが上がったわけじゃない。
できるようになったと錯覚していたけれど、違う。
俺は、俺を好きになっている……わけじゃない。
俺は、しほが好きになってくれた俺だから、好きになれていただけ。
だから、しほに疑われたことに対して過剰な悲しみを抱いてしまったのだろう。
――俺は元々、モブキャラだったから。
それを言い訳にして、しほの優しさに甘えていた。
それが、彼女に不安を抱かせてしまっていた。
――幸太郎くんは『しほが好きな幸太郎』を演じているかもしれない。
俺が、俺を肯定するために。
しほが好きな幸太郎でいることを、無意識下の内に選択していた?
それをなんとなくで感じ取っていたしほは、しかし今までなら持ち前の権能……『聴覚が鋭いこと』を使って、俺の愛情を理解していたはず。
でも、その権能が弱くなったことで、俺の感情が分からなくなって嫉妬している?
……いや、厳密に言うと違う。昔からしほはやきもちすることが度々あったから、やっぱり俺の姿勢がずっと気になっていたのだと思う。それが顕著になっているだけだ。
だとしたら、俺は……変わらないといけない?
ううん、それも少し違う。変わるというよりは、変わらない覚悟を決める必要があるんだ。
だってしほは『ありのままの幸太郎』が好きなのだから。
嫌われることを恐れて、しほの好きな幸太郎に変わることを、彼女はイヤがっているの。
だから俺がやるべきことは……素の自分を、愛すること。
そして、しほの優しさに甘えずに、ちゃんと気持ちを伝えること。
別に特別でも難しいことでもない。
当たり前のことを、当たり前にできるようにならなければ、いけない――そう思った。
「……しほのこと、大好きなんだ」
自然と口から零れた。
何も考えずに、浮かんだ言葉を精査することなく……ストレートに、感情を言葉にしていた。
「だけど、うまくいかない。こんなに好きなのに……付き合うことも、恋人になることも、できない。俺と君は、まだ『友達』でしかない。そんな自分が、不甲斐ない」
「――うん」
いつもなら、一言目のセリフでしほは舞い上がっていただろう。
純粋な少女は、いつも新鮮なリアクションで俺の言葉を喜んでくれるけど。
今は、静かに俺の言葉を待ってくれていた。赤面しながらではあるけど、耳を傾けてくれている。
だから、ちゃんと伝えた。
「いくら考えても、しほとの関係が進展する改善策が俺には思いつかない。だから、メアリーさんに相談したんだ……彼女は頭が良い上に、俺のこともしほのこともよく知っているから……浮気してたわけじゃないよ。俺が好きなのは、君だけだから」
メアリーさんに、物語について相談した。
でもその問題が収束した先にあるのは……しほのことだった。
「どうすれば、俺の恋は……ラブコメは――幸せになるのか」
物語に詳しいつもりだった。
生来、本だけは誰よりも読んできたつもりだったのに。
今までなら、ある程度この先の予測ができたのに。
いきなり物語が変わって、展開が読めなくなったから……怖かった。
「メアリーさんは、頭が良くて……俺にない知識や思考を持っている。俺以上に、物語に詳しい人で……彼女なら、俺をちゃんと訂正してくれる――そう思って、会いに行ったんだ」
……こんなこと、しほに言うべき話ではないのかもしれない。
だって、自分の人生を『物語的に見ている』なんて、おかしいことは分かっている。
だから今まで隠していた。
でも、隠しているということは、後ろめたさがあるといこと。
そうしているうちは、自尊心が低いままで……ありのままの自分を好きになるとは言えない。
「モブキャラが、メインヒロインと結ばれるラブコメは、どうやったら作れるのか」
そう思って、打ち明けたのだ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます