三百七十三話 実は意外と不思議な出会い


 何はともあれ。

 とりあえずメアリーさんと話もできた。参考になる意見も聞けたので、来る前と比べたら気持ちが楽になっている気がする。


「じゃあ、そろそろ帰るよ」


 未だに喧嘩する胡桃沢さんとメアリーさんに声をかける。

 すると、メアリーさんが寂しそうな表情を浮かべた。


「コウタロウ、置いていかないでくれよっ! このピンクにはうんざりしてるから連れて帰ってくれないかな!? そうだ、キミの家でメイドしようか? 金髪巨乳メイドさんとラッキースケベな体験ができるからオススメだよっ」


 そんなこと言われても……ちょっと困った。


「メアリーさんのことは異性として見てないんだ。ごめん」


「しほに調教されすぎだよっ。あんな貧相な体を好きになるとか、変態の領域に片足を突っ込んでるじゃないか! むしろ、こんなドスケベボディに異性としての魅力以外の何があるのか、言ってみろよ!!」


「あはは」


 メアリーさんって本当になんでもできるなぁ。

 コメディも上手である。リアクションが面白くて思わず笑ってしまった。


「いや、『あはは』じゃなくてっ。こっちは真剣に提案してるつもりなんだから、冗談として処理されるのは心外だねっ」


「……さっきからうるさいわね。あんたはあたしのメイドで我慢しておきなさい? ほら、壊れた椅子の片づけと、余っている部屋の椅子を用意して。あたしは中山を見送ってくるから、それまでに全部終わらせていないと減給するわよ」


「……くそー! 今に見てろよ、負けヒロインのツインテールっ。ワタシを嘲笑ったその罪、いつか償わせてやるからな!?」


 と、負け惜しみを言いながらもテキパキと動き出すメアリーさん。

 ドジな一面もあるみたいだけど、元々は優秀な人間なので仕事はできるのだろうか。掃除の手際は良いように見えた。


「じゃあ、行きましょうか」


 そう言って、胡桃沢さんが先導するように歩き出す。

 その後ろを歩いていると、彼女が声をかけてきた。


「……結構、仲が良さそうね。あんな子と仲良くできる人間がいるとは思っていなかったわ」


 やっぱり、メアリーさんのことは気になるのだろうか?

 俺と彼女の関係性に驚いているようだ。


「仲が良いというか……俺は彼女に一目置いている、ってだけかな? メアリーさんも、俺のことは別になんとも思っていないだろうし」


「そんなことないんじゃない? あの子、他の使用人とも仲良くしようとはしないから、あたし以外にああやってはしゃいでいるのは珍しいのよ」


 普段、メアリーさんに対しては冷たく見える胡桃沢さんだけど。

 なんだかんだ、彼女のことは心配しているように見えた。


「……そういえば、胡桃沢さんっていつメアリーさんを雇ったの?」


 ふと、そんな疑問が浮かんだ。

 一年生の頃はまだ、メアリーさんは学校に通っていた。時系列的に考えると、最近になるのかもしれない。


「春休みに拾ったのよ。雨の中、捨てられていたから」


「そんな、子犬みたいな……」


「本当よ? まぁ、捨てられていたのかどうかは知らないけど、たまたま道端に見つけたのよ。しかも、アメリカでね」


「アメリカ!?」


 それから話を聞いたところ、なんとメアリーさんは国外にいたらしい。

 胡桃沢さんはたまたま旅行で出かけていて、その際に見たことのある顔を見つけたから、声をかけた……という流れだった。


 意外と不思議な出会い方をしていて、びっくりした。

 いったい、どういうことなのだろうか――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る