三百七十話 元クリエイター(自称)の考察 その2


 どうやらメアリーさんは、こんなことを考えていたようだ。


「コウタロウには申し訳ないけれど、そもそもキミは主人公の器じゃない。物語を動かすには不適格なキャラクターであるだけじゃなく、ストーリーを生み出せるほどの『力』がないんだよ」


 ……そんなこと、言われなくても分かっている。

 中山幸太郎というキャラクターには、元々何も設定されていないのだから。


「それでも、メインヒロインのシホに愛されることによって格が吊り上げられて主人公の座に祭り上げられてしまった。分不相応の立場で、身の丈に余る幸福と不幸を手に入れたコウタロウは、死に物狂いで理不尽に抗った……その結果、今に至るわけだ」


 竜崎龍馬の物語が終わった。

 いや、正確に言うなら……俺の存在が、あいつのハーレムラブコメを壊した。


 メインヒロインを失ったあいつの物語は、そのぽっかりと空いた穴を埋めるために迷走したけれど、結局しほ以上の存在は現れなかったのである。


 こうして、竜崎は主人公ではなくなった。そして今度の主人公に最も近い立ち位置にいたのは……中山幸太郎だったのである。


「これは予想できた未来の一つではある。ただ、ワタシにはどうしてもキミが中央に立っている物語の全体図が見えない。リョウマと違って華もなければ、主人公としての欠陥もなく、成長の余白がない。物語を生み出すには、あまりにもキャラクターが弱すぎる」


 散々な言いようだけど、不思議と腹は立たなかった。

 言われ慣れているし、思い慣れている『事実』だったからなのだろう。


「それなのにどうして、コウタロウではなくリョウマの物語が『打ち切り』になった? ワタシがクリエイターであるならば、コウタロウなんて選ばない。こんな……たまたまシホに選ばれてしまっただけの『モブキャラ』なんて、つまらないからね」


 逆に清々しいと感じるほどにハッキリとした物言いは、なんだか気持ち良かった。

 最近、抱いていたモヤモヤが晴れていくように、スッキリとしたのである。


「……おいおい、ワタシはキミを褒めてないぞ? どちらかと言えば揶揄しているのに笑うなんて、気持ち悪いなぁ。コウタロウはもしかしてマゾヒズムでもあるのかい?」


「え? ああ、ごめん。別に、気持ち良くて笑ってるわけじゃなくて」


 そういう癖があるわけじゃない。

 ただ……そのワードを他人の口から久しぶりに聞いた気がして、なんだか懐かしさを覚えたのである。


「モブキャラって、久しぶりに言われたなぁ――って」


 昔はよく、自分をそうやって卑下していた。

 あれからまだ一年しか経っていないなんて……その間に色々ありすぎて、随分と遠い昔のように感じる。


 そうだ。俺は、モブキャラだった。いい意味合いの言葉ではないけれど、なんだか随分と居心地がいいワードである。


「……なるほどね」


 そんな俺を見て、メアリーさんは苦笑した。

 久しぶりに見た、他人を小バカにするような笑顔である


「にひひっ♪ コウタロウの問題点は分かったよ……なるほどねぇ。シホが苦労するわけだ」


「何が分かったんだ? 俺の問題点を教えてくれ」


「コウタロウは……結局、モブキャラでいることに安堵感を覚えているんだよ。自分がメインの立場にいることを受け入れ切れていない。だからキミは、時折違う自分になろうとしてしまうんだろう? メインキャラクターに相応しい『中山幸太郎』になろうとして……しかし、ありのままのコウタロウを愛しているシホが、それを嫌がっている――そういう構図は、見えたかな」


 ……やっぱり、メアリーさんは天才だ。

 久しぶりにそれを実感させるような分析だった――

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