第三百五十五話 一方、サブキャラクターたちは その6
「こら、中二病の痛々しいポンコツメイド。主人を待たせて雑談なんて、いい身分ね。クビになりたいのかしら」
「……中二病じゃないと思うけどね? どちらかと言えば、ワタシのこれは『高二病』だ」
「どっちでもいいわ。早く乗りなさい」
「ぐぎぎっ。悔しいけど、使用人の身分では抗いようがないね。ああ、これで弱者の辛さを学習してしまった……その痛みを知ってしまったからには、次からワタシは自分より立場の低い人間をいたぶることができなくなってしまうなぁ」
それって良いことなのでは?
そんなことを思いながらメアリーさんを見ていると、彼女は反対側のドアから車に乗った。
「シートベルトは? よし、ちゃんとしてるわね。偉いじゃない」
「ワタシは幼児かな? 時代遅れのツンデレツインテールに言われなくてもそれくらいできるんだけど」
「豚も煽てたら木に登るとは、面白いことわざよね」
「このワタシをメスブタ呼ばわりとは、面白いよ。いつかころしてやる」
……俺、帰っていいのかな。
ちょっとどうしていいか分からないでいると、やっと胡桃沢さんがこっちを向いた。
「中山、ごめんね。うちのバカメイドが迷惑かけたわ……次からは送迎の車に乗らないように言い聞かせておくから、安心して」
メアリーさんとは違って、俺に対しては顔つきがすごく穏やかになる胡桃沢さん。
それだけメアリーさんには手を焼かされているのだろうなぁ……冷たい態度になってしまうのも理解できた。
「いや、大丈夫……迷惑ではなかったよ」
「そう。それならいいんだけど……」
「うん」
「「…………」」
そして、不意に会話が止まった。
俺としては、そのまま胡桃沢さんの乗る車が動き出すと思ったけど、まだこの場に留まったままだ。
奥にいるメアリーさんも不思議そうにこちらを見ている。
いったいどうしたんだろう……と、俺も困惑していたら。
「――あまり、緊張しないでね」
小さく、胡桃沢さんが呟いた。
まだ何か伝えたいことがあるみたいで……その目は、まっすぐ俺を見ている。
「同じクラスになったからと言って、今更……中山に迷惑をかけたいとは思ってない。前は色々あったけど、あたしはちゃんと気持ちをリセットして、切り替えたから」
かつて、告白されたこともあって。
キスもしたことがあるせいか、俺はもしかしたら彼女に対して身構えていたのかもしれない。
「仲良くして、とも言わない。ただ、普通にしてほしい……それだけ。ごめんね、変なこと言って。じゃあね」
それだけを言って、胡桃沢さんの乗った車は走り出した。
その車を見送りながら、俺は思わず苦笑してしまった。
(俺はなんで、あんなに無害な女の子を警戒しているんだろう……)
不意にそう思った。
物語的に考えると、胡桃沢さんはこの章におけるカギであるように見える。
だから、不用意なまでに警戒してしまっていて……それで胡桃沢さんがイヤな気持ちになっていたとするなら、良くない気がした。
何もされていないのに、何かされると思い込んでしまっている。
今の俺は……いや、過去も今も、俺はそんなことばかり考えている。
物語的に現実を捉えることで、未来予知をしているつもりになっている。
そんな自分がいることに気付いて……なんだか、怖かった――
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