第三百五十二話 一方、サブキャラクターたちは その3

 どちらかと言うと、メアリーさんは使用人(メイド)ではなくご主人様の方がイメージに合う。傲岸不遜で、いつも自信満々で、人を顎で使うことにためらいがない部分があって、しかも自分以外の他人を平気で見下せる高飛車さもあるので、メイドはまったく似合っていなかった。


 性格的にもそうだし……あと、ファッションとしても、ちょっと微妙な気がする。

 メイドにしては主張の激しすぎるスタイルなので、奥ゆかしさが一切感じられなかった。


「……なんだい、ジロジロと見ないでくれるかな? いくらワタシがセクシーだからって、こんなところで発情されても困るんだけどね」


「セクシー……?」


「お、おい、ちょっと待ってくれないかな? ワタシ、セクシーだろう? ほら、胸とかすごいからね!? これでJKなんだから、世の男性にとっては垂涎ものだ」


「……ごめん、俺にはよく分かんないや」


「ま、まさか……コウタロウ、シホに調教されてるのか? あのひんにゅー幼児体型の小娘にしか魅力を感じられない変態になってたりするんじゃないかな?」


「そんなことないよ」


 失礼なことを言わないでほしい。

 しほは確かに、メアリーさんに比べたら大人っぽいスタイルではないかもしれないけど……逆にそれがいいと思う。


「じゃあ、ワタシのメイド服ってエロいだろ?」


「いや、別に?」


「だったら、しほのメイド服姿は?」


「……ちょ、ちょっと俺にはまだ、早いかな」


「え? 照れてる? コウタロウ、すごく真っ赤になってるけど……う、嘘だよね!? ワタシが、あの貧相なマセガキスタイルの少女に負けてるとか、ありえないよ!」


 さっきから口が悪いな。

 そんな性格だから、しほよりも魅力に劣るのだ。


 ……って、俺は何を話しているんだろう?


「別にメアリーさんを見てたわけじゃないよ。車を見てただけだから」


「それはそれですごく心外なんだけどね? セクシーなワタシを見て鼻の下を伸ばしていれば、まだ可愛げがあるものを……ふぁっきゅー」


「そういえば前の車と違うんじゃないか? ほら、黒くて大きいやつ……リムジンだっけ?」


 そう言ってみると、メアリーさんは露骨に目が泳いだ。


「べ、べべべ別に大したことはないけれどね!? ちょっと気分転換に安い車にしているだけだよっ」


 やっぱり、何か言いにくい事情がありそうだ。

 いったいどういうことなんだろう?


 首を傾げながら、メアリーさんを見ていると……不意に、後ろから声が響いた。


「ちょっと、安いってどういうこと? この見栄を張ることにしか価値のないような車に、あたしの父がいくら税金を支払ってるか分かって言ってんの?」


 少し粗野で、素っ気ないけれど、どこか耳を傾けてしまうような言葉遣い……顔を見なくても、発声主が瞬時に分かった。


 振り返ると、そこにいたのはやっぱり……ピンク髪のツインテールが印象的な、胡桃沢くるりさんだった。


「えっと……つまり、メアリーさんが乗っている車って、胡桃沢さんのってこと? あれ、じゃあ、メアリーさんはいったい……?」


 戸惑いがあったせいか、思わず声をかけてしまう。

 彼女にも声がちゃんと届いていたようで、しかし俺ほどの動揺はなく……淡々と返答してくれた。


「別に、大したことじゃないわ。単純に、この安いって言われた車はあたしの物で、そこにいるメイドはあたしの使用人……つまり、どっちもあたしの所有物よ」


「所有物? おいおい、ワタシは人間だよ。人権は無視かい?」


「……残念ながら、このメイドにはうるさいっていう欠陥があるのよね。こっちは車と違って本当の安物よ」


「安物!? こんな上物が、安いって……このピンク髪しか特徴のない時代遅れのツンデレツインテールが、調子に乗らないでくれるかな?」


「あんた、クビ」


「あ、ウソ! お得意のアメリカンジョークだから……わ、ワタシを見捨てないでよ、ご主人様!!」


 ……色々と、ツッコミどころはあるけれど。

 とりあえず、二人の関係性が分かったので、まずは良しとしておこう。


 何がどうなって、そうなったのかは分からないけれど。

 胡桃沢さんは、どうやらメアリーさんを使用人として雇っているようだった――

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