第三百五十話 一方、サブキャラクターたちは その1

 そうして、新しい学園生活が始まった。

 とはいっても、一年生の時と比べたら大分静かで……その原因は、間違いなくあいつがクラスにいないからだろう。


(竜崎がいない学園生活って、こんな感じなんだな)


 一年前と比較したら、信じられないくらいに穏やかである。

 竜崎龍馬とクラスメイトだった頃の教室はいつも賑やかだった。


 主に竜崎を中心に、黄色い声が飛び交っていたのである。

 それが懐かしいというわけではないけれど。


 それに……仮に竜崎がいたとしても、以前のような騒がしさはなかったと思う。

 だって、もうあいつは『主人公』ではないのだから。


「…………あ」


 休み時間のことだった。

 お手洗いから教室に帰る途中、廊下でたまたま竜崎と遭遇した。


「ん? なんだ、中山か」


 あいつも俺に気付いて、少し疎ましそうに息をつく。

 別に雑談するような関係でもないが、かと言って喧嘩するほど険悪でもないので、軽く会釈をしてそのままそばを通り過ぎようとした。


 竜崎も、俺のことは快く思っていないだろうし、これくらいの距離感がちょうどいいのだろう――と、思ったのだけど。


「中山、お前は何組なんだ?」


 ……信じられないことに、あちらから話しかけてきた。

 以前までの竜崎ならありえない現象である。


「え? ああ、うん……三組だけど」


「そうか。じゃあ、しほ……霜月って呼ぶべきか? もう分かんねぇけど、彼女とは違うクラスなのか」


 それから、再度驚くことになった。

 竜崎からしほの話をすることなんてめったになかった。

 俺に彼女に関する話をすることを、竜崎はイヤがっていたはずなのに……やっぱり、吹っ切れたということ、なのだろうか?


「まぁ、うん。違うよ」


 素直に頷くと、竜崎は肩をすくめて壁にもたれかかった。

 雑談を継続するような体勢をしたので、俺も体を竜崎に向けた。


「お前とクラスが違って清々する。一年の時は散々だったからな」


「よく言うよ……こっちも大変だったのに」


「そうだろうな。まぁ、色々あったけど、別にお前に対して謝るつもりなんてないが。あと、これから仲良くするつもりも」


 それはもちろん、俺も同じ気持ちだ

 しかし、以前よりは……竜崎にも、フラットな感情で接することができていた。

 あいつも、俺と同様の気持ちなのだろうか。


 だから話しかけてきたのかもしれない。


「結月とキラリは、俺と同じ二組だ。今年こそ、普通に楽しい一年になってほしいものだがな」


「そうなるといいな」


 軽く頷くと、竜崎は俺を見て興味深いと言わんばかりに目を細めていた。


「……お前、なんか変わったな」


「え?」


 まさか、竜崎からもそう言われるとは思っていなかったので……これに関しては、驚きを隠せなかった。

 しほにもそう言われた。竜崎も、なんとなくそれを察知しているらしい。


「何が変わった、とは具体的には言えないが……中山にしては、目つきが悪い」


「目つきが?」


 今日の竜崎には驚かされてばかりだった。


「悪いっつーか、鋭いって表現すんのか? 前と比べると、精気がある……のかもしれないし、そうでもないのかもしれない。んー、よく分からん。ってか、俺は何でお前とそんな話をしてるんだ?」


「そんなこと言われても……」


 話しかけてきたのは、そっちの方である。

 思わず苦笑すると、竜崎もつられるように笑った。


「まぁ、そんな感じだ。呼び留めて悪かったな、そろそろ戻る」


 そう言って、竜崎はそのまま自分の教室へと戻っていった。

 竜崎にしては終始穏やかな顔つきで……落ち着いていた。


 彼の後日談は、とてもゆったりとしているのだろうか。

 だとしたら、とてもいいことだと思う。


 もう、物語に巻き込まれずに、普通の少年に戻っているのなら……きっと、結月とキラリの恋も、ちゃんとした結末を迎えるはずだから――。




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