第三百四十一話 『物語的』に考えて『メインヒロイン』だから
――竜崎のハーレムラブコメが終わった。
バレンタインを経て、学校でのあいつを見ていると、なんとなくそう感じた。
何せ、かつて感じていた竜崎のオーラがない。
主人公性と呼んでいたあいつの特徴が、いつの間にか消えていたのである。
前より、少し表情に陰りがあるだろうか。
常に自信満々だったあの時よりも、表情に力はない。
だけど、良く言うなら『穏やかになった』と表現できるだろう。
学校で、結月やキラリと話している時の顔が、以前とは全然違うのだ。
竜崎は話している側の方が多かったのだが、最近はあいつが話を聞いているところを多く目にする。他人のことをちゃんと慮ることができるようになったのか、リアクションも大きくなっているような気がした。
そのおかげか、話している結月やキラリも楽しそうだった。
(もう、心配は要らないな)
彼女たちはもうハーレムラブコメのサブヒロインなんかじゃない。
一人の女の子として、竜崎と向き合って……いつかあいつも、答えを出すのだろう。
その時に、二人が後悔しなければいいな――と、そんなお節介なことを思いながら日々を過ごしていたら、三学期が終わった。
つまり、俺たちは一年生じゃなくなる。
三月の後半。今は春休み期間中だが、四月になると高校二年生になるのだ。
その時に……また、新たなラブコメが始まるのだろう。
物語的に考えるなら、今は小休止。入学式だから、テンプレに沿って考えると新入生という新キャラクターが出てきそうな気がする。
今後はきっと、竜崎ではなく俺としほがメインになるはず。
その時に、彼女が傷つかないような……そんな物語になればいいけれど。
ともあれ、今は物語が始まっていないわけで。
とりあえず、この穏やかな日常を楽しんでおこうか――
――と、いうことで、春休み。
当然、彼女は当たり前のように俺の家に居座っていた。
「くそー!」
リビングにくぐもった叫び声が響く。
その出所はもちろん、しほだった。
声がくぐもっているのは、クッションに顔を埋めて叫んでいるせいである。
「負けたー! 悔しぃ……ぐぎぎぎぎぎぎっ!!」
「……いや、でも運ゲーなんだから、負けることもあるよ」
想像以上に悔しがっていたので慰めようとしたのだが、今俺がそれをするのは逆効果だったようで。
「勝者が慰めないでっ。余計にみじめだわ……うぅ、まさか幸太郎くんに負けるなんて思ってなかったのにっ。私の方がやり込んでいるし、ボコボコにしてマウントを取って気分良く幸太郎くんをおちょくろうと思ってたのに、なんで勝っちゃうのよっ」
……いやいや、初心者をボコボコにして調子に乗るのはちょっとどうかと思う。
相変わらず、ちょっとだけせこい女の子だった。
ちなみに、対戦していたのはブロックが落ちてくる有名なゲームだ。
落ちてくるブロックを並べて一列ごとに消していくものである。古くからあるゲームだからなのか、操作も簡単だった。
最近では一人モードではなく100人で対戦できるようにもなっているらしくて、しほが最近よく遊んでいたのを見かけていたけど……今日は珍しく対戦を挑まれたので、負けると思いつつやってみたら勝ってしまって、現在に至る。
「オンラインでまったく勝てないから、幸太郎くんでスッキリしたかったのに……」
初心者でストレス発散を目論むなんて、なかなかずるかった。
しほは結構、負けず嫌いなのである。あと心が狭くてせこい。ゲームで熱くなるとすぐに言葉遣いも悪くなるし、本当に……うん、かわいいなぁ。
こんなに面白い女の子なのに。
かわいいと思えるのは、やっぱりメインヒロインだからなんだろう――
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