第三百三十九話 終わりの前口上
【最後のメアリー視点】
――いやいや、ちょっと待ってくれないかな?
いつの間にワタシは間抜けキャラになった?
完璧なチートキャラとして登場して、テコ入れヒロインながらも第二部を盛り上げた立役者だよ?
(なんでワタシに『意外と詰めが甘い』というふざけた設定が追加された?)
おかしい。
流れが、おかしい。
ワタシが把握している物語が、明かに変わっている。
流れが狂っていた。ワタシが関与できていた部分がすっかりなくなっていた。
(いつ、ワタシがキラリ程度にやり過ごされるような人間になってしまった?)
いつも完璧で在り続けた。
不敵で、腹の奥底が見えないような、トリッキーなピエロとしてこの物語をかき回してきた。
この立場をまっとうしていただけなのに……キラリとのやり取りを最後に、ワタシは自分がおかしくなっていることに気付いた。
(ワタシの『全能』という特性がはく奪されている)
メアリー・パーカーに与えられていた役目がなくなっていた。
おかげで、ワタシの力が急激に衰えている。
カフェでキラリと出会った後のことだ。
それ以降……身の回りにおかしなことが続いていたのである。
まず、父の会社が倒産した。
あれだけ盤石の経営体制を誇っていたと言うのに……普通ならありえない落ちぶれ方だった。
運が悪かった。タイミングが悪かった。都合が悪かった。
あらゆる負が繋がり、負債となり、父は財産を失った。
本当に奇跡みたいな転落劇だった……まさしく、神様の力が作用したと思わずにはいられないような、天文学的な事態が起こったのだ。
詳細は語らなくていいだろう。
結果的に、何が言いたいのかと言えば……そしてワタシの『金持ちキャラ』がなくなった、ということだけなのだから。
連鎖して、探偵たちを雇うことができなくなって……情報を把握できなくなってしまい、物語が分からなくなってしまった。
ワタシはコウタロウと違って、第二部を終えた時点で物語の当事者から外れている。物語の中心にいる彼は自然とストーリーを把握できるかもしれないけど、サブキャラという立場上、どうしても力技を使わないと物語を知ることができない。
つまり、それが意味することは……ワタシは本格的に、ただの『サブキャラクター』に成り下がるということだった。
特筆すべきことは『サブヒロインですらない』という部分かな?
ここ数日で気付いたのだけど……いつの間にか、ワタシは変わっていた。
(いったい、いつ……ワタシはリョウマを好きじゃなくなったんだろう?)
そうなのだ。
かつて、彼を愛してしまったメアリーがいつの間にか消えていた。
不自然に芽生えた恋愛感情だったから、失ったところで大して感慨はなかったけれどね?
だけど、自分が勝手に書き換わっている感覚が、すごく気持ち悪かった。
こんなに露骨に手を加えるなんて、相変わらず無能なクリエイターだなぁ。
(ワタシの設定を勝手に書き換えないでくれよ)
ため息が零れ出る。さて、もうワタシは終わった。
いよいよ本格的にお役御免ということで、恐らくはもうワタシ視点で物語を語ることすらできなくなるだろう。
その資格を、無能なクリエイター……どこの誰とも知らないラブコメの神様にはく奪されたのだから、どうしようもなかった。
やれやれ、散々な数カ月間だったけれど……なんだかんだ物語に関われて楽しかったなぁ。
後はもう、見守るとしようか。
家無しの身分となって、勝手に居候している家で、ワタシは憂鬱にこう呟いた。
「やれやれ、コウタロウはこれからどうなっちゃうんだろうね? ラブコメの神様が、いよいよ本格的に物語を終わらせに来たけれど……彼にはどんな試練が与えられるんだろう?」
そうすると、居候させてくれている彼女がうんざりしたようにこう言った。
「ねぇ、その話いつ終わるの? あんたの中二病の話、面白くないんだけど」
……はぁ。これだから物語を見えない人間はつまらないんだよ。
その点、同じ見える側のコウタロウとの会話は、楽しかったのになぁ。
「そう言わないでくれよ、そんなんだから出番があまりなく物語が最終章に進んじゃったんだよ? もっと自分を省みたらいいのに」
この役割がよく分からないピンク髪のヒロインは、予想通りワタシと相性が悪そうだ。
「そんなこと言うんだったら居候させない」
「あ、ウソっ! 冗談だからクルリのすねをかじらせてくれよっ」
「じゃあ、ちゃんと掃除して。あんたは今、ただのメイドさんなんだから……無駄口叩いてないで、さっさと働いて」
「…………」
ちょっと前までは、物語を狂わせるトリックスターとして活躍していたというのに。
今ではすっかり、金髪巨乳の洋風エロメイドだ。
あーあ。
最終章も活躍したかったけど、それは無理そうだ。
さて、前口上はこれくらいにして……そろそろ、本編へと入ろうか。
ついにコウタロウは、物語と対峙することになる。
果たして、どんなシナリオで彼が『物語』を克服するのか。
それでは、お楽しみに――。
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