第三百三十八話(エピローグ) そして、彼のハーレム物語は――


 2月14日。バレンタインデーを迎えた。

 その日、俺の家には二人の少女がいて……それぞれが、俺にチョコレートをくれた。


「りゅーくん、どうぞ。べ、別にあんたのために作ったわけじゃないんだからねっ」


「……そうなのか?」


「ううん、ウソ。アタシが好きなキャラクターがこんな感じでツンデレしてたから、真似してみただけ」


 キラリがニコニコと笑いながら渡してくれたチョコレートは、包装紙の上からでも形が少し歪なのが分かった。

 きっと、頑張って作ってくれたのだろう。その気持ちを素直に感謝した。


「ありがとう」


「いえいえ~。じゃあ、次はゆづちゃんの番だよー」


「はい。龍馬さん、わたくしからも……キラリさんのチョコに比べると些細なものですが」


「何それ、イヤミかー? ゆづちゃんも言うようになったね……こんな悪い女の子には、お腹もみもみの罰を処してもいいんだよ?」


「え!? あ、そういうつもりじゃなくて……というか、龍馬さんと喧嘩してストレスでたくさん食べちゃって、太っちゃったんです。だから、お腹だけは触ったらダメですっ」


「とか言って、胸に脂肪が言ってるパターンのやつか! ふんっ、まだまだ大きくなりやがって……もしかしてメアリーさんより大きくない?」


 二人のこういうやり取りも、随分と久しぶりのような気がした。

 キラリと結月は、前からずっとこんな感じである。


 今日、二人は俺の家の前でバッタリと鉢合わせしたらしい。

 だけど驚きはなかったようで、すんなりとお互いを受け入れたみたいだ。


「結月も、ありがとう」


 彼女たちは相変わらず素直で、俺にはもったいないくらいの女の子である。

 だからこそ、しっかりと向き合って……いつか、俺の気持ちを伝えたいと思っていた。


「結月とキラリの気持ち、本当に嬉しいよ」


 そう話しかけると、二人は雑談をやめて俺を見てくれた。

 静かに耳を傾けてくれている。


「二人の気持ちも、ちゃんと伝わっている……でも、前にも言った通り、俺はまだ本当の自分の気持ちが分からないんだ」


 拙いながらも、懸命に。

 かっこ悪くてもいいから、彼女たちみたいに素直な気持ちを、言葉にする。


「俺のこと、待たなくてもいい。もし、他に好きな人ができたら……遠慮なく俺のことなんて忘れてくれ。だけど、それでもまだ、俺のこと待っていてくれるなら――」


 こんな俺を、好きでいてくれるのなら。


「いつか、キラリと結月への本当の気持ちに……好きという想いに、答えを出すよ」


 俺は誰が、好きなのか。

 誰を、好きになったのか。

 自分以外を愛したことがないから、それはまだ分からないけれど。


 でも、いつか……少なくとも高校を卒業するまでには、ちゃんとそれを明らかにする。


 その時にはたぶん――いや、絶対に、結月かキラリのどちからを好きになっているはずだから。


 もし、それまで二人が俺のことを好きでいてくれたのなら、ちゃんと答えを出す……そう、しっかり伝えた。


 ここまで来てまだ不鮮明な言葉しか口にできない自分は、とても不甲斐ない。

 でも、それが俺だった。竜崎龍馬は、残念ながらそこまでカッコいい人間ではない……一瞬で心を入れ替えられるような純粋さなんて、なかった。


 だから、こう言う他なかったのである。


 我ながら、とても情けないとは思う。

 しかし、二人は……それでもいい、と笑ってくた。


「大丈夫だよ。ちゃんと、待ってあげるから」


「どうか、お気楽に。自分の気持ちに、素直になってください……わたくしも、たぶんキラリさんも、選ばれなかったことを逆恨みするような人間ではありませんから」


 二人の言葉が、心を軽くしてくれる。

 俺を好きになってくれた二人は、なんていい子なんだろう……そんなことを考えて、目頭が熱くなった。


「――ありがとう」


 こんな俺を好きになってくれて。

 こんな醜い俺を、見捨てないでくれて。


 本当に、ありがとう。


 もう、二人を傷つけたりしない。

 これからちゃんと、向き合うから。


 だから、これからも……俺のことを、見ててくれ――。









 ――こうして、俺のハーレム物語は幕を閉じた。

 振り返ってみると、色々あった。ヒロインたちを傷つけて、失敗して、間違えてばかりのラブコメだった。


 この結末が正しいのかどうか、俺には分からない。

 だけど……今に至ってまだ、俺のことを好きで居続けてくれる女の子たちがいるから。

 

 その想いに報いてあげられるように、ちゃんと成長する。

 これから主人公として、ではなく……普通の『竜崎龍馬』として、人生を歩んでいく。


 物語性などない、第三者が見るとつまらない一生かもしれないけれど。

 俺と、それから俺を好きになった人だけが幸せであれば、それでいい。


 そういう、ありふれた幸せを、手に入れることが出来たら……それだけでもう、十分だった――。




【第四部・完】





お読みくださりありがとうございます!

少し急ですが、これで第四部は終わりとなります。

長くなってきて、少しまとまりがなくなっている気もしますが……悩んでいたらいつまでも終わらないので、とにかく書き進めておりました。

ここまで長くラブコメを続けたことがないので、色々と新しい発見があってびっくりします。やっぱり創作って難しいですね。

一応、これで竜崎龍馬関連のお話は終わりになります。それに伴って、サブヒロイン……梓、キラリ、結月に関してもようやく終わりました。

それが意味することは、つまり……幸太郎が過去と決別した――という意味でもあります。そしていよいよ、彼はしほと向き合う時が来ました。

恐らく、次の第五部が最後になると思います。そこまでお付き合いくださると嬉しいです!

書きながらですが、すごく後悔することもあります。「ここはこうすれば良かった!」とか、「ここはこうしておけば、後々こういうことにできたのに!」とか。または、読者の皆様からのコメントを見て「確かに!」と思うことも多々あって、可能であるならリメイクしたいほどの衝動に駆られることもしばしばです。

もちろん、ここまで続けているのでリメイクすることはないのですが、代わりにその後悔を書籍版では晴らしております。

もしよければ、web版との違いも確かめてくれると、嬉しいです!

これからもよろしくお願いします!


八神鏡

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