第三百十七話 ポカポカ
「実はたまたま作りすぎちゃったの。いやー、自分用のおやつに用意したのはいいんだけど、私ってとっても小食だから食べられなかったし、幸太郎くんに手伝ってもらえそうでちょうど良かったー」
そんな棒読みのセリフと一緒にチョコレートを渡された。
一口サイズのそれが三個。ポケットに入れていたにしては包装紙で丁寧に包まれている。
「そうなの? てっきり、バレンタインの練習でもしているのかと思ってた」
「っ!?!?!?!? え、エスパー!? 幸太郎くんは超能力者だったのかしら……い、いや、違うわ! 別にそんなつもりないし? あ、ふーん? そういえばそろそろバレンタインの季節だったわ。いやー、忘れてたなー。私、チョコレート大好きで普段から作りまくってるから、そんなバレンタインとか関係ないけどなー」
見え見えのウソをついて唇を尖らせるしほ。
「ひゅ~(´ε` )」
とぼけて口笛を吹こうとしているけど、音が出ないのでただただひゅーひゅー言ってるだけになっていた。
おかしいな、絵文字まで見えるような分かりやすい顔つきになっている。
「ば、バレンタインを意識するなんて、幸太郎くんってもしかして気にしてるの? 今年はもらえるかどうか、期待しているのかしら? うふふ、かわいいところあるじゃない。チョコレートごときがもらいたいなんて、幸太郎くんもまだまだ子供だわっ」
反撃のつもりなのか、からかおうとしてくるしほ。
とはいえ、今は俺に分があるわけで。
「うん、しほからもらいたいよ」
「――はにゃ!?」
素直に気持ちを伝えたら、しほが途端に動揺したから分かりやすかった。
「うっ……思わず、アニメの萌え萌えキャラクターみたいな反応をしちゃったわ……あれはあれでかわいいけれど、私みたいなクールな女の子には似合わない鳴き声だったかしら」
いや、クールなのは見た目だけで中身は結構熱っぽいので、割かしそのリアクションは似合っているよ。
「な、なるほどね? 幸太郎くんは私からバレンタインをもらいたいと、そういうことなのね……っ!」
それから、俺の言葉がよっぽど嬉しかったのか、ほっぺたをニマニマと緩めていて、そういうところが見ててとても微笑ましかった。
「ち、ちなみに、その三つの中だとどれが一番好みの味かしら? 実は一つ一つ甘さが違っていて……あ! 別にバレンタインとは関係ないのだけれどね!? あくまで調査の一環で、興味本位で聞いているだけだから、私が渡すかどうかはまだ分からないわよ? ほら、渡すならちゃんとサプライズみたいな感じで渡したいし、あげますよ~って宣言して渡すのはちょっともったいないと思うのっ」
焦っているのか、いつもより口数も多い。
それを笑って聞きながら、受け取った三つのチョコレートを食べ比べてみた。
味は最初に貰った時よりも格段に良くなっている。
料理上手なお母さんが手伝ってくれておかげか、普通にチョコレートだった。
「そうだなぁ……二つ目くらいがちょうどいいかも?」
一番目は甘すぎて、三番目は苦みを感じた。
好みとしては二番目に貰ったチョコレートが一番である。
「えー! 私と一緒ね! さすが幸太郎くんだわ……なかなか『分かっている』じゃない♪」
君が味の何を『分かっている』のかは分からないけれど。
とはいえ、好みが一致したのは俺としても嬉しかった。
「しほが一番美味しいって思うものが、俺の食べたい味なのかもしれないなぁ……もしバレンタインをくれる人がいるなら、そのあたりを意識してくれると嬉しいんだけど、しほはどう思う?」
「私もそう思うー!」
ベッドの上で、彼女がぴょーんと跳ねる。
座ったままバタバタと動き回るしほを見ていると、とても心が温かくなった。
外は寒いけれど、部屋の中はとてもポカポカしている。
こうやってぬくぬくしているのが、冬の一番幸せな過ごし方だと思った。
バレンタインまで、あと少し――
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