第三百一話 ラブコメ脳のキラリちゃん
メアリーの何が一番怖いかと言うと、何がしたいのかよく分からないところだった。
「そういえば、こうやって二人きりでメアちゃんと話すのは初めてだね~。いやー、前からメアちゃんのこと、気になってんだよ?」
「HAHAHA! 何でも聞いてよ! ワタシもキラリに聞きたいことあるから、お互い様だよ!」
「じゃあ、遠慮なく……メアちゃんって、何カップ?」
「メロンとかスイカくらいかな? HAHAHA! 外国だと普通だよー」
「普通なわけないじゃん!? うわぁ、すごいおっきー……」
軽い雑談を経ても、やっぱりその疑問が解決することはなく。
(この黒服の人たちってアリーちゃんの仕込みでしょ? わざわざ満席にして、アタシと一緒に座りたがるって、どういうこと?)
周囲に机の下のスマホが見られないように警戒しながら、キラリは更に文章を打ちこんだ。
『メアリーさんの胸ってメロンカップなんだって。いや、もしかしたらスイカかもしれない』
『ごめん、ちょっと何を言ってるのか意味が分からない』
幸太郎に冗談が通じにくいのは昔と変わらない。
そういえば中学生の時もたまにボケた時は会話がかみ合わなくなったなぁ――と、懐かしい気分になった。
(よく分からないけど、まぁなんとかなるか)
思い悩んでも仕方ないので、自然体でいられるように気持ちを落ち着ける。
ちょうどそんな時に、タイミングよくメアリーが仕掛けてきてくれた。
「あたしの胸……もうこれ以上、大きくならないのかな……」
キラリの適当な言葉に対する返答は、少し脈絡のないもので。
「大きくなくてもいいんじゃないの? だって、リョウマはそんなに大きくなくてもいいって言ってたから!」
不意に、不自然に、強引な力技で挟み込まれた『リョウマ』というワードを耳にして、キラリはふと直感した。
(あ、分かった。この人、もしかして……りゅーくんのことが好きなの!?)
とはいえ、正解とは少し離れているのだが。
しかしそのすれ違いは、結果的に良い方向性に転がることになる。
『ねぇ、こーくん。メアリーさんって、もしかして性格悪い?』
『ものすごく悪い。だから、あの人の言葉はあんまり真に受けない方がいい』
『オッケー。ありがと』
そんなやり取りを終えると、確認の意味を込めてこんな質問をしてみた。
「……りゅーくんは、関係なくない?」
少しだけ、不快ですよ?みたいな表情を作ってみる。
ブスっとした顔で言葉を返すと、メアリーが嬉しそうに頬を緩めた。
「だって、ワタシもキラリもリョウマのことが大好きだからだよ!」
そのリアクションを見て確信した。
(やっぱり、メアリーさんって……りゅーくんのことが好きだから、ライバルのアタシを蹴落とそうとしてるんだ!!)
こちらを揺さぶるような発言と、揺さぶられた時の嬉しそうなリアクションが、キラリにそう思わせたのである。
実際は、キラリがメアリーの思い通りの言葉を言っていることに喜んでいるだけなのだが……キラリの頭はやっぱりお花畑なラブコメ脳なので、すっかり乙女チックの方向に傾いていたのだ。
(性格の悪いメアリーさんだから、りゅーくんと仲が良さそうなアタシが邪魔なんだよね……うん、気持ちは分かる! でも、嫉妬とか、独占欲とか、そういう感情を抱いたところで、りゅーくんに対してはあんまり意味がないよ。メアリーさんが傷つくだけなのに……)
内心でお節介なことを思いながらも、キラリは同情心を抱いていた。
(メアリーさんはりゅーくんに恋してまだ間もないのかな? ああ、そうか! 前は仲良しで、今はそうでもないってことは、喧嘩しちゃったんだよね? それでりゅーくんと疎遠になって、その逆境がまた彼への恋心を加熱して、ついつい他の女の子を排除したくなったんだ!)
妄想は、止まらない。
そしてキラリが導き出した結論は、こんなものだった。
(可哀想に……せめて、今だけは夢を見させてあげないと!)
メアリーの思惑通り、キラリは『排除されてあげる』ことを決意した。
だから彼女は、メアリーのほしがっているであろう返事を、プレゼントすることにしたのであるーー
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