第三百話 サブヒロインVS自称クリエイターの再戦
少し前までの、竜崎龍馬に毒されていたころのキラリなら、もしかしたらメアリーの到来に気付くことはなかったかもしれない。
一人の男性しか見えなくなり、その他のことを何も考えられなくなってしまうくらいに彼を盲信していた時の彼女は、物語に都合よく動かされるだけの奴隷だった。
でも、今は違う。
文化祭を経て、自分を取り戻し、落ち着いた時間を過ごすようになって、キラリは多少の冷静さと判断力を取り戻した。
だからこそ、自称チートキャラでありながら、実は意外と穴が多いメアリーの到来と異変を察知できたのである。
つまり……彼女はもう、ご都合主義に翻弄されてあげられるほど、愚かではなくなったのだ。
(えぇ!? なんか急に人が増えた……ってか、みんな黒服っておかしくない? しかもムキムキでサングラスでマッチョとか、まるでボディーガードじゃん!)
店内になだれこんできた男性たちを見て、キラリの眼鏡がズレ落ちそうになる。おかしすぎる展開に動揺しそうだった。
(もしかして、メアリーさんのボディーガードとか? あの子、お金持ちっぽいし、有り得るけど……だとしたら、なんでこんなことになってんの???)
頭の中に疑問符が次々と浮かぶ。
一応、ライトノベルを読んでいるふりは続けているが、もちろん今も内容は頭に入ってこなかった。
(こーくんのことで悩んでる時に、変なことしないでよっ)
内心でメアリーに毒づきながらも、様子をうかがっていると……黒服の男性が店内中の席に座ったところで、ようやくメアリー本人がこっちに向かって歩いてきた。
「おや? これは偶然! クラスメイトのキラリだ! 混んでるから、隣に座っていい?」
開口一番、嘘くさい笑顔と一緒に白々しい言葉が吐き出されて、思わずキラリは笑いそうになってしまう。
(いやいやいや! 偶然にしては都合が良すぎるでしょ!?)
心の中でツッコミを入れながらも、一応は笑顔を作っておいた。
メアリーの意図がまだ読めなかったので、相手の出方を探ることにしたのだ。
「んにゃ? あ、メアリーだ」
果たして、呼び捨てにしていいかどうかは分からないのだが。
一応クラスメイトだし、キラリは基本的に他人のことをさん付けしない。他人のことはあだ名で呼ぶことにしているが、メアリーとはまともな会話も仕方ことがなかったので、とりあえずそう呼んでおいた。
「ハロー♪」
「……あれ? いつの間にこんなに混んでたの?」
「いやー、さっき雨が上がったから、一気にお客さん来たんじゃないかな? 隣、座っていい?」
「あ、うん。どうぞどうぞ~」
上辺だけの会話をしながら、目の前に座ったメアリーを凝視してしまう。
(なんか……イヤな感じがするなぁ)
洋風の顔も、金色の髪の毛も、スタイルのいい体も、どれもが魅力的な女の子。
しかし、完璧すぎるがあまり、逆に不気味なほどに人間味が感じられなかった。
――怖い。
不意に浮かんだ感情がキラリを襲う。
まるで、捕食者に遭遇した小動物のような気分だった。
(なんとか、やりすごさないと……っ!)
本能的にメアリーを拒絶したキラリは、この場を回避する手段を探した。
だが、急に用事を思い出したと言って逃げたところで、また次もこうやって強引な手段をとられて二人きりになってしまう予感がした。
だから逃げずに立ち向かうことにしたのだが……しかし、独りでメアリーを相手にするのは心細く、自信がない。
誰か助けてくれそうな人がいないか――と考えたとき、ふと彼のことを思い出した。
(――そうだ。こーくんがいるじゃん)
たった今、連絡を取っていた中山幸太郎の存在が頭に浮かんだ。
(こーくんって、メアリーさんともよく話していたし……ちょっと、彼女のことを聞いてみようかな?)
ふとした思い付きだった。
メアリーと雑談しながらも、机の下でスマホを操作して文章を打ちこむ。
『また突然だけど……今、メアリーさんと偶然会ったんだ。それで、彼女って安全な人? 変な質問でごめんね』
「ちょっと待ってね。これ、あと10分くらいで読み終わるから」
文章を送信して、それから返信の時間を稼ぐためにもそんなことを言う。
しかし、今度の返信は想像以上に素早く帰ってきた。
『危険だよ』
(やっぱり!!)
予想が当たって、キラリは思わず逃げ出したくなるのだった――
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