第二百九十九話 ※返信が早いのは調教済みだからです


 もう既読はついてしまっている。

 メッセージが来てから、5分ほどが経過していた。


『中山です。どうかした?』


 しかしキラリは、その一文を前にまだ硬直してしまっていた。


(相変わらず、何を考えてるのかまったく分かんないし!!)


 思い返してみると、中学生の頃から中山幸太郎という同級生はよく分からなかった。表情がないというか、何をしても楽しそうには見えないし、かといって退屈そうにも見えず、受身でありながらも迷惑は感じていないような、つまり彼はとにかく分かりにくかったのである。


 高校生になってからは、少しは無機質じみた性格もマシになっていたが……文章になるとまだ、感情が反映されづらいようだ。


(こーくんの彼女はきっとたいへんだろうなぁ……素っ気ないから『嫌われてるのかも?』って不安になって、ヤンデレ化しちゃいそう)


 あながち的外れではない感想なのだが、しかしキラリは一瞬でそれを打ち消した。


(――って、そんなわけないか。あの霜月しほといい感じみたいだし、彼女がヤンデレ化なんてするわけないよね~)


 ……実際はしほがなかなか重めの少女だとキラリは知らないので、軽く笑って肩をすくめる。

 さて、現実逃避はそろそろ終わりだ。時間を見ると既読がついて10分が経過している。そろそろ返信しないと不審感を持たれそうなので、まずは当たり障りのない文章を打ち込んでみた。


『いきなりでびっくりさせちゃっていたら、ごめんなさい』


『いいよ、大丈夫』


 返信は一瞬。幸太郎にしては素早いリアクションに、キラリは再び目を丸くする。


(こーくん、意外とこういうやり取り、好きなのかな?)


 ……まぁ、返信はすぐにしないとしほが拗ねるせいで、即座の返信がクセになってしまっているだけなのだが。


 とりあえず、イヤがられていないことにキラリは安堵した。

 とはいえ、雑談するほど今は仲良くないわけで……これ以上の前置きは不要かと判断したキラリは、意を決して本題へと入ることにする。


『またまた突然なんだけど、実は謝りたいことがありまして……』


『謝るって? 別に怒ってないよ』


 ああ、そうだろう。

 幸太郎が怒ってないことくらい、キラリだって分かっている。

 だが、けじめをつけるためにも、彼女はとにかく謝罪したかったのだ。


『この前、ビンタしたでしょ? そのこと、ずっと申し訳なく思ってて……どうしても謝りたくて、あずちゃんからこーくんの連絡先を教えてもらったから』


 少し長めの文章を送る。

 そうすると、幸太郎からの返信もわずかに時間が空いた。


(……も、もしかして、思い出して怒ってる!? ってか、そうだ……こういうのって文章じゃなくて、普通は直接会ってから謝るべきだよね!? うわっ、誠意が足りないって思われちゃったかな……っ!)


 不安に苛まれて、思わず更に文章を打ちこみたくなってしまう。しかし、返信がないのに重ねて連絡を送るなんて、まるで重たいメンヘラみたいなので、キラリはそんな自分を制止した。


 とりあえずライトノベルを開き、文章を読んで心を落ち着けようと試みる。だが、幸太郎のことに意識が引っ張られているので、内容は全く頭に入ってこなかった。


 そのまま、読んでいるふりをしながらも、頭の中でぐるぐる思考を巡らせる。


(リアクションがなかったら、電話しよう……それで会う段取りをつけて、ちゃんと謝らないと――)


 と、これからの段取りを考えていた時だった。


「――――え?」


 不意に、金髪が視界に入った。

 横目でチラリと見てみると、巨乳の洋風美女がこちらを盗み見ている。物陰に隠れているつもりなのだろうが、無駄に肉付きがいいせいで体の一部……特に胸がまったく隠れていなかった。


(あれ、メアリーさんだよね?)


 偶然見つけたクラスメイトの存在に、キラリは戸惑ってしまう。

 そして彼女がこちらを観察していることにも気付いて、混乱してしまった。


(何か用事? いや、でも……イヤな予感がするなぁ)


 メアリーは危険だ――と、キラリの直感が告げている。

 というか、メアリーが何かを企むような顔をしていたので、警戒していたのだ――

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