第二百九十五話 他人の復讐は蜜の味
人の心というのは、驚くほど分かりやすい。
シホが聴覚に優れているように、ワタシは『感覚』が優れている。だからなのか、相手の思考や行動が手に取る様に分かってしまう。
論理は知らない。先天的になんとなく分かるだけだから、シホと同じで五感のいずれかが異常に発達しているわけではないのかもしれない。
常識では語れない。そういう能力を、もしかしたら『第六感』と呼んだりするのかもしれないね。
さて、前置きが長いなとイライラさせてしまっていたら申し訳ないけれど。
つまりワタシは、キラリの感情が手にとるように分かるということである。
「そういえば、こうやって二人きりでメアちゃんと話すのは初めてだね~。いやー、前かメアちゃんのこと、気になってんだよ?」
「HAHAHA! 何でも聞いてよ! ワタシもキラリに聞きたいことあるから、お互い様だよ!」
「じゃあ、遠慮なく……キラリちゃんって、何カップ?」
「メロンとかスイカくらいかな? HAHAHA! 外国だと普通だよー」
「普通なわけないじゃん!? うわぁ、すごいおっきー……」
彼女はワタシと仲良くなろうとしている。
心の底から、本気でワタシのことを知りたがっている。
本当に、無警戒だった。
まるで、養豚場にいる子豚が懐いているみたいで、微笑ましいね。
いつか屠殺されて出荷されちゃうとも知らずに、心を開くなんて……哀れな生き物を見ているようで、心が温かくなった。
人間がみんな、こうやって扱いやすい動物なら良かったのになぁ。
もしそうだったら、ワタシは偽物ではなくて本物のクリエイターとして、快楽を享受できたのに。
――おっと、また話題がそれちゃった。
閑話休題。とりあえずキラリの聞きたいことは終わったみたいだし、次はワタシのターンとさせてもらおうかな。
「あたしの胸……もうこれ以上、大きくならないのかな……」
「大きくなくてもいいんじゃないの? だって、リョウマはそんなに大きくなくてもいいって言ってたから!」
不自然な流れにはならないように、話に乗るふりをする。
それでいて、さりげなく『リョウマ』というワードを当てはめた。
その瞬間、穏やかだったキラリの表情に、わずかな影が差す。
「……りゅーくんは、関係なくない?」
緩んでいた警戒心が、途端にきつく締めあがる。
その態度が、彼のことを未だに引きずっていることを示していて……それがすごく、哀れだった。
なんて分かりやすい女の子なんだろう?
何もかもが、思うままだ。
「だって、ワタシもキラリもリョウマのことが大好きだからだよ!」
想定通りのリアクションだったので、こちらも予定通り『無邪気で能天気な女の子』を演じ続ける。
「……い、いきなりでびっくりしたなぁ。あははー」
ワタシに悪意がないことを知ったキラリは、微かにだけど警戒心を緩めた。
鋭かった視線もなくなり、今度は居心地が悪そうに体を揺らしている。
そして次に、彼女はきっとこう言うだろう。『でも、あたしは別に好きじゃない』――と。
「でも、あたしは別に好きじゃない」
「えー!? じゃあ、ワタシだけが好きってことなら、ラッキーだよ♪」
そして、無邪気なワタシの発言を耳にしたキラリは『そ、そう言ってるわけではないけどね……』と言うのだ。
「そ、そう言ってるわけではないけどね……」
会話がプロット通りに進行していく。
これならたぶん、大丈夫かな?
『りゅーくんなんて、大っ嫌い』
最終的にそう言わせるために、ワタシは今ここにいる。
さぁ、哀れなサブヒロインちゃん? そろそろ目を覚まして、現実を見ようか。
そしてアナタの意地をワタシに見せてくれ。
サブヒロインでも、女の子なんだから……今まで、散々振り回してきた男に、最後くらい復讐してくれよ。
そしてワタシは、その甘い光景を眺めながらこう言うのだ。
ざまぁみろ――って、ね?
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