第二百九十三話 打ち切り
ああ、まずい。
ダメだ……ムズムズしてきた。
物語の先のことを考えると、ワクワクしてくる。
一応、ワタシは自分のことをただの『サブヒロイン』だという自覚はある。でも、かつて『クリエイター』を自称していたこともあってか、まだ悪い癖がぬけきっていなかった。
――ざまぁみろって、言いたいなぁ。
そういえば、久しくその一言が呟けていない気がする。
リョウマの物語に介入して失敗した第二部以降、ワタシは物語に便利に使われるばっかりで、大して何もやっていない。
だから、そろそろ……遊んでみてもいいのかな?
もうリョウマは朽ち果てて、腐れて、ただのどうしようもないダメ主人公になっている。
つまり、リョウマのハーレムラブコメは『打ち切り』になっているのでは?
停滞しているコウタロウとシホのラブコメの方が先に打ち切りになるかと思ってたけど……いや、違うのか。二人のラブコメは永遠に更新されなくなるだけで、終わりになることはないのかもしれない。打ち切りとはまた別問題だね。
でも、リョウマの物語は違う。
見方によっては、もう全部ダメになって終わっているのだから……うん、こっちが『打ち切り』なのか。
それなら、ワタシがリョウマとリョウマのハーレムメンバーを使って、遊んでもいいよね?
「にひひっ」
久しぶりに、ワタシらしい笑みがこぼれた。
登場当初は、よくこうやって自信満々に笑っていたと言うのに……ワタシも落ちぶれたものだよ。
「よし、キラリに説教でもさせてあげようかな?」
ふと、思いつく。
リョウマのせいで散々な目に遭ったキラリと喧嘩させて、リョウマの心をズタズタにしてやれば、面白いかもしれない。
……まぁ、正確に言うと、ワタシが色々と仕掛けたせいでキラリは苦しむことになったんだけど。
詳しくは第二部を参照してもらいたいね。
とにかく……ずっと報われなかったサブヒロインに罵倒されるリョウマが見たくなったので、早速彼女をけしかけにいった。
向かった先は、カフェスペースが併設されている本屋さん。買った本をその場で読める場所で、最近のキラリがよくここを利用していることは、探偵の調査資料で把握していた。
以前ほどリョウマに依存しなくなった代わりなのか、彼女は本を読むようになったらしい。時刻は夕方。少し遅いけど、やっぱり今日も彼女はここにいた。
窓際の席で本に集中しているキラリは、ワタシに気付く様子がない。いや、気付かれたところで、あまり仲良くないから彼女の近くに行くのは不自然かもしれない。
よし、それならこうしよう。
「もしもし、爺や? 人が必要だから、よこして。10分で」
電話で使用人を招集。カフェスペースの席を埋めて、混雑という状況を作り上げる。
やれやれ、これなら『おや? これは偶然! クラスメイトのキラリだ! 混んでるから、隣に座っていい?』なんて、テンプレのような声かけができるだろう。
ワタシがもしメインキャラクターだったら、こんなマッチポンプみたいな手段を使わなくても、ご都合主義で勝手に満席になっていただろうけど……まぁ、所詮はただのサブキャラクターなので仕方ない。メインヒロインになるには格とか器が小さすぎた。胸は大きいんだけどなぁ……肝心の部分が成長できなかったのが残念だよ。
だからこそ、小悪党のザコキャラらしく、物語の外で遊ぶことにしたわけだ。
……よし、適当に本を買って、カフェでコーヒーを注文して、準備は完了。トレイを抱えて、まっすぐにキラリの元へと向かう。
「おや? これは偶然! クラスメイトのキラリだ! 混んでるから、隣に座っていい?」
計画していた通りに声をかけると、キラリはようやくこちらに気付いて、顔を上げた。
「んにゃ? あ、メアリーだ」
「ハロー♪」
「……あれ? いつの間にこんなに混んでたの?」
「いやー、さっき雨が上がったから、一気にお客さん来たんじゃないかな? 隣、座っていい?」
「あ、うん。どうぞどうぞ~」
かつて、ワタシに遊ばれたキラリだけど、あの時は黒幕に徹していたので、彼女にはワタシに悪いイメージがないみたいだね。
警戒心も薄く、容易に懐に入り込めた。
本当に、可哀想なサブヒロインちゃんだなぁ。
あの歪んだ主人公様を愛せるだけあって、いい子すぎる。
本当に、扱いやすいよ――
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