第二百九十二話 整理整頓と第四部の『オチ』
物語というのは、油断するとすぐにグチャグチャになる。
作者が書きたいままに書きなぐった作品が、大抵の場合完結せずに終わってしまうのは、ちゃんと情報の整理整頓ができなくなるからだ。
だからまず、物語を書く前に『プロット』と呼ばれる物語の設計図を用意する。
人によっては一から十まで流れを書くし、まったく書かない人間もいる。しかし、書かない人は頭の中でちゃんと組み上げているだけで、プロットがないわけじゃないらしい。
ワタシだってもちろん、プロットは用意していた。
でも、現実を物語にするにはあまりにも不確定要素が多すぎるから、紙に書いていてはキリがないので、全て頭の中で組み上げている。
当初、この第四部はコウタロウとリョウマの対立を描く予定だった。
そのために、すっかり物語とは関係なかったアズサを強引に舞台へと連れ戻した。
主体性がなく、いつも流れに流されていた日和見主義のユヅキも、精神的に追い詰めてリョウマと向き合わざるを得なくした。
おかげでリョウマは孤独になり、ハーレムメンバーたちの大切さに気付いて……しかし彼女たちが、実は過去にコウタロウと縁があったことを知り、絶望したわけだ。
『クソっ……結局俺は、お前よりも下なんだな。初恋の人を奪われた挙句、その代わりに好きになろうとした相手は、お前のおさがりだったなんて……っ!』
リョウマがそう言った時は、痛快だった。
盗撮のモニター越しで見ていたせいもあって、ドラマを見ていると錯覚したくらいに。
それまでは順調だった。
でも、シホが間に割って入ったおかげで、テンポも物語もズレた。
そういうわけだから、物語の軌道修正が必要になったわけだ。
「まず、解決しないといけない問題は……リョウマのことだねぇ」
第四部の着地――つまり『オチ』は、リョウマの失墜。
ワタシは、そろそろリョウマの役割は終わったと考えている。いいかげんにあの不快なキャラクターはご退場頂いても構わないだろう、と想定していた。
だって、もう彼は『主人公』じゃない。
天性の主人公性ですら、少しずつ陰りを見せている。
だって、あの無条件肯定キャラクターのユヅキが嫌うような人間にまで落ちぶれてしまったんだよ?
主人公性を保っていたなら、そんなことはありえない。
無意味にモテることが唯一の特技で、リョウマが『主人公』という格に収まっていた唯一の理由だったのに、それがないならもう彼はただの不快なキャラクターの他ならないだろう。
なので、心がスッキリするくらいに惨めな末路を迎えてほしい。
その『オチ』を目指して、ワタシはどうすればいいのかな?
「うーん……『不幸』が足りないかな」
もっと苦しんでほしい。
そして、ワタシをオとした責任を取ってほしい。
リョウマの性質に振り回され、冒されて、挙句の果てには惚れさせられた結果、ワタシはクリエイターではなくサブヒロインとして分類されてしまったわけで。
その怨みは、正直なところまだ残っていたりする。
つまりこれは、ワタシにとっての『復讐』にも近かった。
「コウタロウとシホの結末は、ワタシの欲望を発散した後に見届けてもいいよね?」
二人のラブコメに関与する気はもうない。
シホのことは嫌いだけど、だからといって彼我の力の差が分からない程、ワタシは鈍感で愚かじゃない。
彼女には逆立ちしても勝てないし、その代わりにリョウマで思う存分鬱憤を晴らさせてほしいよね。
「――理由付けは、これくらいでいいかな」
さて、色々と理屈を合わせて、ワタシがリョウマに執着するつじつまを合わせておいた。
だから今後はもうちょっと、ワタシ自身が物語に関与していこう。
だから、次は……あのサブヒロインも巻き込んでおこうかな。
「ワタシにめちゃくちゃにされたこと、根に持ってるかな?」
あの子……浅倉キラリは、今何をやってるのだろう――?
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